『心をひらいて』

あなたも家族だ。


〝パペッティアー〟 緒環 伸(おだまき・しん)(キャラシート)PL:さささ
葬列(コルテージ)眞守 雪斗(まもり・ゆきと)(キャラシート)PL:いーさにうむ

メイン雑談

目次

  • プリプレイ
  • OP:気まずい会話
  • シーン1:清潔な断絶の檻
  • シーン2:静寂と絶望の夢
  • シーン3:凄惨な絶命の夢
  • クライマックス:ささやかな幸せの記憶
  • 12/23、23:18
  • バックトラック
  • ED:きっと明日もいい日になるさ。

  • プリプレイ

    ■トレーラー
    全てを分かち合える──尊いことだ。
    痛みも苦しみも全て共有しよう。喜びも楽しさも全て共有しよう。
    何もかもみんなで分け合って、お互いの全部を知ることができたら、きっと私達は家族になれる。
    だから、教えてちょうだいな。

    ダブルクロス The 3rd Edition.

    『心をひらいて』

    ダブルクロス、それは裏切りを意味する言葉。


    ■共通ハンドアウト
    あなた達は〝家族〟として目をつけられた。
    家族は同じ家に住むものだから、あなた達は家に招かれる。
    家族は全てを分かち合うものだから、あなた達は分かち合うことになる。
    それが当然のことだ──と、彼女は思っている。


    ■自己紹介
    GM:自己紹介! 緒環さんからキャラシのURL張りつつどうぞ!
    緒環 伸https://character-sheets.appspot.com/dx3/edit.html?key=ahVzfmNoYXJhY3Rlci1zaGVldHMtbXByFwsSDUNoYXJhY3RlckRhdGEY7ePzvQIM
    緒環 伸:"パペッティアー"緒環 伸(おだまき・しん)。第9支部所属のエージェントです。
    緒環 伸:古代種であり不老なので、42歳という年齢のわりに見た目は若いにやけ顔スーツ青年。
    緒環 伸:オーヴァード歴はそこそこ長い方ですが、昔はふらふらとイカサマ師などをしていたのでエージェント歴はそんなでもないです。
    緒環 伸:中身はだいぶ適当な性格のおっさんですが、なんだかんだ事件があると真面目にやるので安心してほしい。
    緒環 伸:過去の卓では惚れてる古代種の女性がいたりとか、なんかそのうち血をあげることになったとかそういう感じです
    緒環 伸:ピュアオルで、基本的には味方3人までの達成値を上げたり、4回妖精の手したりできます。
    緒環 伸:ナーブジャックもできますがあんまり発動率は高くない。
    緒環 伸:そういう感じでやっていきたいと思います!
    GM:よろしくお願いします!
    GM:次、雪斗さん同様に!
    眞守 雪斗http://character-sheets.appspot.com/dx3/edit.html?key=ahVzfmNoYXJhY3Rlci1zaGVldHMtbXByFwsSDUNoYXJhY3RlckRhdGEYhv2n-AIM
    眞守 雪斗:「“葬列”に加わりたくなければ、どいていろ」
    眞守 雪斗:「……別に取って喰いやしない。目付きが少し、悪いだけだ」
    眞守 雪斗:眞守雪斗(まもり・ゆきと)、24歳。所属支部なし。『遊撃手』として、主に単独~少数でのR案件制圧に寄与するエージェント。
    眞守 雪斗:不眠症のため、常に目の下にクマを刻んでいる。目付きが悪すぎるせいで、気さくに接してもらえないのが密かなコンプレックス。
    眞守 雪斗:10年前、両親が起こした一家無理心中の唯一の生き残り。覚醒したことで死を免れた。以来、彼の後ろには死んだ家族が憑いている。
    眞守 雪斗:その後、死者の列には彼が殺した者たちも加わり、やがて“葬列”と呼ばれるようになった。
    眞守 雪斗:彼のエフェクト発現に呼応し、“葬列”は領域内を破壊し尽くす嵐となる。
    眞守 雪斗:データ的には、ウロボロス/オルクスのサイレナー。《ソードマスター》《拡散する影》で達成値を盛るタイプ。破壊者持ちで割と速く動けます。
    眞守 雪斗:やや闇深めの彼ですが、最近結婚しました。勢い余ってという部分はありつつも、幸せな日々を送っているようです。
    眞守 雪斗:今日はその嫁の知人と会うことになるようですが、果たしてどんな会話が繰り広げられるのか……?
    眞守 雪斗:そういう感じで、よろしくお願いします。
    GM:よろしくお願いします! ということで早速だがスタートだ!

    OP:気まずい会話


    GM:このセッションは全シーン二人とも登場です。ということで登場侵蝕をどうぞ。
    眞守 雪斗:シーンイン:眞守 雪斗の侵蝕率:+10(1d10->10) ((侵蝕率:40->50))
    眞守 雪斗:飛ばすな……!
    緒環 伸:緒環 伸の侵蝕率を+5(1d10->5)した(侵蝕率:40->45)

    GM:N市第九地区市街地。平穏無事な日中のことである。
    GM:緒環 伸。あなたは別にサボっているとかそういう訳ではないんだけど、急ぎの用も無いのでのんびりと過ごしている。
    GM:とりあえず喫茶店とかコーヒーショップとかの屋外席に居ることにして欲しい。今日は良い天気だぞ。
    GM:ということで緒環さん、1行2行くらいのんびりしていてください。出来事が向こうからやってきます。
    緒環 伸:ぽかぽか……
    緒環 伸:気に入りのカフェで、特に用もなくノートパソコンを開き、ぼんやりしている。
    緒環 伸:端から見れば若いITかデザイン関係の人、とでも見られるかもしれない。そんなに若くないんだけど。
    GM:では、そうしていると、
    眞守 さざめ:「あらっ、緒環さん。お久しぶりです」と、あなたの知人であるところの雨宮 さざめがしずしず歩いて来る。
    GM:……その少し後ろには見知らぬ顔の(或いはどこかの支部で擦れ違いくらいはしてるかも知れない)男性が。
    GM:という感じで雪斗さんも現れたのだ。
    緒環 伸:「ん」そちらを見る。
    緒環 伸:「ああ、雨宮さん。しばらくぶり」軽い調子で手を振る。
    眞守 雪斗:「……」 特に言葉を発することなく、嫁の出会った知人に目を向けている。
    眞守 さざめ:「ええ、いつ以来でしたか────」
    眞守 さざめ:「あっ」と一声。それからはにかむように笑って、「そういえば、まだお伝えしていないのでした」
    眞守 さざめ:そう言って、後方の男性と緒環さんとを交互に見てから、
    眞守 さざめ:「こちら、眞守 雪斗さん。……私の夫です」と、特別なことなど何も無いかのように言った。
    緒環 伸:その様子を見て。
    緒環 伸:ああ、なんかいい仲なのかね。いいねえ羨ましいねえ、的なことを言いかけて。
    緒環 伸:「夫?」
    緒環 伸:聞き捨てならないワードに引っ掛かる。
    眞守 さざめ:「はい」こくん、と頷き
    眞守 さざめ:「実は先日、結婚致しまして。今は眞守 さざめ、にございます」
    緒環 伸:「えっ、その、先日って大して前でもないよな……?」
    緒環 伸:「結婚?」
    緒環 伸:「あ、前々から付き合ってたとか、そういうやつだ」
    眞守 雪斗:「……さざめ、この方は?」 UGNの、という言葉を省略する。恐らくその関係の知人なのだろう、と。
    眞守 さざめ:「そうですね……そろそろひとつき程にもなりますでしょうか、雪斗さん──」と、あなたの方を見て問いかけてから、
    眞守 さざめ:「あっ、そうそう。こちらへのご紹介がまだでした」
    緒環 伸:「ひとつき……」
    眞守 さざめ:「こちら、第九支部所属の緒環 伸さん。若々しいお顔をしていらっしゃいますが、中々にお歳が上の方にございます」
    緒環 伸:「わかりやすい紹介をどうも……えーと、よろしく。眞守くん」
    緒環 伸:「眞守くん……」二人を見比べる。
    眞守 さざめ:「はい、眞守でございます」にこにこ。いや笑っているような顔は普段からだが
    眞守 雪斗:「ああ、……よろしく頼む」
    緒環 伸:「二人いる計算になるな」考え込む。
    緒環 伸:「まあ、じゃあ、さざめちゃんと雪斗くん、ってことになるか」
    眞守 雪斗:「好きに呼んで頂けると助かる」
    眞守 雪斗:さざめが妙に楽しそうだ。出逢えばこのような会話になると予期していたのだろうか。
    眞守 さざめ:「ええ、そうなりますかと。挨拶回りもなかなかできませんで申し訳なく──あら?」
    眞守 さざめ:と話していた所、突然にさざめはスマートフォンを取り出し、
    眞守 さざめ:「……あら、すいません。急な着信が……すぐ戻りますのでどうかお待ちを」
    眞守 さざめ:と言って、そそくさと離れて──
    眞守 雪斗:「ああ、分かった」
    緒環 伸:「ああ、いってらっしゃい……」
    眞守 さざめ:……数歩行って、ちょっとだけ戻ってきてから
    眞守 さざめ:「ひとまず、かふぇらてなるものを飲んでみとうございます」
    眞守 さざめ:と言い残して、今度こそ離れていった。
    GM:即ち残されたのは、たった今知り合ったばかりのあなた達だけ。
    GM:ということでお二人は、彼女が戻ってくるまで男二人でテラス席だ。
    眞守 雪斗:頷き返し、その背を見送った。──取り残された。
    緒環 伸:ひらひらと手を振って見送る。
    緒環 伸:……取り残された相手をちらりと見る。
    眞守 雪斗:「……名前だけというのもな。俺は所属支部はないので、これ以上の肩書を持たないが」
    緒環 伸:「ああ、遊撃みたいな感じか。助かってるよ、そういうポジ」
    眞守 雪斗:「そうか、まあ助けになれてるなら良いが」
    眞守 雪斗:言って、沈黙。
    緒環 伸:「僕もまあ、そんなに今のとこに来てからは長くないけど……」
    緒環 伸:(……黙った……)
    眞守 雪斗:元々事務的なことしか喋らないような人間だ。雑談というのは、特に初対面ともなれば、間違いなく不得手な方の人間である。
    緒環 伸:「うん、やっぱり人手が足りない時に応援に来て貰えるのはね」
    緒環 伸:「その隙を突いて、僕がゆっくりとサボりを満喫できるわけだ」
    緒環 伸:はは、と笑う。とりあえず和ませにかかる。
    眞守 雪斗:「第九支部は、人手が慢性的に不足していると聞くな」
    緒環 伸:「まあ、どこも大変だとは思うけどねえ」
    緒環 伸:(……反応がないな)
    緒環 伸:(今のは……今のはツッコミどころだぞ……!)
    眞守 雪斗:(サボり……どこまで本当なんだろうか……)
    眞守 雪斗:「さざめとは、以前の任務で?」
    緒環 伸:(流された……!)
    緒環 伸:「うん、二回ほど縁があってね」
    緒環 伸:「そっちも仕事の関係かな」
    眞守 雪斗:「……以前より、何度か」
    眞守 雪斗:「色々あって、籍を入れることになった」
    緒環 伸:(情報が……)
    緒環 伸:(少ない……)
    緒環 伸:「そうかそうか、色々……」
    眞守 雪斗:(色々。話すべきなんだろうか)
    眞守 雪斗:(しかし、さざめのいないところでな……)
    緒環 伸:「さざめちゃんは……まあ、こう、いい子だよな」
    緒環 伸:「通り一遍の言い方だけど、幸せにしてあげてくれよ」
    眞守 雪斗:「ああ。強い女だ」
    緒環 伸:(あっ、そもそもお祝いをちゃんと言ってないじゃないか)
    緒環 伸:(……帰って来たら改めて言うしかないか……)
    眞守 雪斗:「……俺に出来ることなら」
    緒環 伸:「ん」初めて、おや、と思った。
    緒環 伸:その言い方に、なんとなく誠意のようなものを感じた……気がする。
    緒環 伸:「出来てくれよー。新婚なんだからさ」
    眞守 雪斗:「新婚……」 確かにそうだが、そもそも。
    眞守 雪斗:付き合うという過程をすっ飛ばしてこの関係に至っている。何もかもが手探りだ
    眞守 雪斗:(客観的に説明するのが難しいな、こういうのは)
    緒環 伸:「……なんかあった?」
    緒環 伸:途切れ途切れの会話に、なんとなく不安になる。
    眞守 雪斗:「善処はしているつもりだが」「さざめも……色々とあるようだから」
    緒環 伸:「ああ……」
    緒環 伸:以前会った時も、その前も。雨宮……眞守さざめはどこか頑なな価値観を見せていたように思う。
    緒環 伸:そういう辺りだろうか、などと考えたりもする。大外れかもしれないが。
    緒環 伸:「色々ね……」
    緒環 伸:「あるよね……人は……」
    眞守 雪斗:恐らく。概念的な希望は耳にしたことがあっても──彼女は、恐らく。具体的な野望を隠している。
    緒環 伸:(僕は何を中身のないことを言ってるんだ……?)
    眞守 雪斗:彼女が話そうとするまで、強いて訊くことでもない、と思って今に至るが、
    眞守 雪斗:(色々。そろそろ、時期なのかもしれない)
    眞守 雪斗:「そうだな……」
    眞守 雪斗:中身のない会話をしながら、対面に座る男の顔を見る。
    緒環 伸:ふと、それで思い出す。彼女とはひとつ、少し先に約束をしていたことを。
    眞守 雪斗:(見た目より歳を、と言っていたが、実際はどれほどなんだろうか)
    緒環 伸:要は、古代種である自分の血液をいずれあげる、というものだ。
    緒環 伸:(あの時は友達がどうこう言ってたけど……確か女の子だったはずだ)
    緒環 伸:(彼は知ってるのかな、その辺の話は)
    緒環 伸:冷めたコーヒーを一口。
    緒環 伸:「あの……えー、雪斗くん」
    眞守 雪斗:(エグザイルの容姿偽装。ソラリスの薬品影響。──或いは、例外的な、“古代種”)
    眞守 雪斗:「……なにか?」
    眞守 雪斗:思考を回していたため、一瞬、反応が遅れた。
    緒環 伸:「いや、大した話じゃないんだけど、ほんとに」
    緒環 伸:「僕のことは彼女から聞いてたりとか、してないっぽいよな?」
    眞守 雪斗:「……そうですね。特段、話題に上ったことはないかと」
    眞守 雪斗:「彼女と、なにか?」
    緒環 伸:「そう。えーと、その」
    緒環 伸:「ちょっと前に、ひとつ小さい約束をしてて。わりに彼女の将来に関わることなんだけども」
    緒環 伸:「君はそれ、知ってるのか、ということを聞きたかった」
    眞守 雪斗:「……将来に関わる、約束」 言葉を、反芻する。
    緒環 伸:「知らなかったらいいよ、直接聞いた方がいいと思う」
    眞守 雪斗:ぐらり、と少し。心が揺らぐ感覚がした。
    眞守 雪斗:────俺は、やはり。彼女について、何も知らない。
    緒環 伸:(……まずったかな)
    眞守 雪斗:「……機会を見つけて、聞いてみようかと」
    緒環 伸:「それがいい。別に、変に隠してるとかは思わなくていいとは思うよ」
    眞守 雪斗:平静を装い、言う。
    緒環 伸:「タイミングとかね、あるさ。きっと」
    眞守 雪斗:小さく、一つ。頷いた。
    GM:では、その時だ。
    GM:「あの、すいません」とあなた達に少女の声が呼びかけたと共に、
    GM:《ワーディング》


    GM:ロイスなど処理は後で纏めて!

    シーン1:清潔な断絶の檻


    GM:登場侵蝕!
    緒環 伸:緒環 伸の侵蝕率を+7(1d10->7)した(侵蝕率:45->52)
    眞守 雪斗:シーンイン:眞守 雪斗の侵蝕率:+9(1d10->9) ((侵蝕率:50->59))

    名無 佳永子:「あの、すいません」
    名無 佳永子:星辰館学院の制服を着た少女であった。
    名無 佳永子:見た目は悪くないが、華やかという程ではない。可愛らしいが、この街の花々に比べれば慎ましい、そういう雰囲気をしていた。
    名無 佳永子:特徴的なのは、左手だ。
    名無 佳永子:薬指の指輪が、何か、この世ならざる強くも妖しい、赤い光を放っていた。
    名無 佳永子:「私は名無 佳永子(ななし・かえこ)って言いまして、あの、雨宮さんの同級生なんですが」
    名無 佳永子:二人のいずれも、雨宮──いや、眞守 さざめから聞かされた記憶は無い名であろう。
    眞守 雪斗:「……彼女は今、席を外している」
    緒環 伸:「そうだね。帰ってくるのを待つといいじゃないかな」
    眞守 雪斗:訪ねてくる友人がいることに在る種の安堵を覚えつつも、その指輪から視線を外せないでいる。
    名無 佳永子:「いえ、大丈夫です。いなくなるのを見てから来ましたから」
    緒環 伸:平静を保ちながら、ワーディングの気配に微かに緊張をしている。
    緒環 伸:「……見てから?」
    名無 佳永子:全く、自分の言葉に疑問を持つ様子も無く、少女は言った。
    名無 佳永子:……ワーディングの環境下で動いているからには、尋常の人間ではない。
    名無 佳永子:「っはい。……うん、やっぱり決めました」
    名無 佳永子:「お二人には私の家族になってもらいます」……言葉と共に、指輪が血のような光を放つ。
    眞守 雪斗:(高校の、UGN関連の者ではないのか──) その思考を中断されるかのように、
    緒環 伸:「……!」
    眞守 雪斗:「────!」
    緒環 伸:がたん、と立ち上がる。
    名無 佳永子:「あっ! 怖がらないでください、大丈夫ですから! お仕置きなんかしませんから!」
    名無 佳永子:「私はただ、あんな酷い人に振り回されてる二人が大変だなって思って」
    眞守 雪斗:大丈夫な要素が一つもない。
    名無 佳永子:「どうせだったら私の家族になってほしいな──って、そう思っただけなんです」
    眞守 雪斗:だが、その言葉は──
    緒環 伸:「酷い人ってのは、さざめちゃんか」確認。
    眞守 雪斗:「……酷い人、とは。一体誰の話をしている」
    名無 佳永子:「……雨宮さんの事は知ってます。あの人はわるい人ですよ」少し、声を潜めて
    名無 佳永子:「作り物の笑い顔と偽物の言葉で周りを騙して、幸せになろうとしてるんです」
    眞守 雪斗:「そうか」 自然、その言葉は陰りを帯び。暗く、低くなる。
    名無 佳永子:「あの人が本当に笑ってないことくらい、私には分かるんです」
    眞守 雪斗:「──お前には、関係のないことだ」
    緒環 伸:「…………」以前、彼女の涙を見たことがある。
    名無 佳永子:「いいえ!」
    緒環 伸:あれが偽物だったとは、思わない。思いたくない。
    名無 佳永子:「あんなのはずるい」
    名無 佳永子:「幸せになるなら、私の方が幸せになるべきなんです!」
    名無 佳永子:「あんな、もうなんだって持ってるような、恵まれた人じゃなくって私が──!!」
    名無 佳永子:瞬間的に、火が付いたように感情を噴出させる。
    名無 佳永子:左手の指輪はいよいよ輝きを増し、煌々と、眩いばかりの赤光を放っている。
    眞守 雪斗:(暴走か。或いは、既に────)
    緒環 伸:「……雪斗くん。いざとなったら」手短に。
    緒環 伸:「僕は援護ならできる」
    眞守 雪斗:頷く。影の立ち上がりを以て、それに応える。
    名無 佳永子:「……家族の間に、隠し事はいけませんよね?」
    名無 佳永子:唐突に。
    緒環 伸:目を細める。事象を繋ぐ運命の糸が見える。
    名無 佳永子:穏やかな声音で、少女は言った。
    緒環 伸:「あ?」
    緒環 伸:虚を突かれたような気持ちで、思わず聞き返す。
    名無 佳永子:「嘘をついたり、大事なことを言わなかったり。そういうことは良くないです。だって」
    名無 佳永子:「家族はもっと幸せで純粋なものなんですよ」
    名無 佳永子:「お互いのことを何でも分かっていて、そこに嘘なんか入り込む余地は無いんです」
    名無 佳永子:にこり、と鮮やかな程に微笑んで、
    名無 佳永子:「だからお二人にも、お互いのことをもっと良く知ってもらいたいなあって」
    眞守 雪斗:(二人? お互い──?)
    名無 佳永子:「緒環 伸さんは……お父さんがいいかな」
    名無 佳永子:「眞守 雪斗さんは、歳が離れたお兄ちゃん」
    緒環 伸:「ちょっと待ったちょっと待った」
    緒環 伸:「何を言って……」
    眞守 雪斗:「一体何の話をしている……?」
    名無 佳永子:「大丈夫ですから」
    GM:──周囲の景色が歪む。光がねじ曲がり、影は這い伸びて空を覆う天蓋となる。
    眞守 雪斗:大丈夫じゃないという確信だけがある。
    緒環 伸:「何も大丈夫じゃない……!」
    GM:日中の光が遮断され、周囲は暗く、暗く変わっていく。
    眞守 雪斗:「これは…………」
    名無 佳永子:「まずは、お父さんとお兄ちゃん、ふたりがわかり合ってくれたら嬉しいな」
    名無 佳永子:「そうしたら、その後は……お母さんも探したいし、私ともお話をしてほしいし」
    名無 佳永子:「ああ」
    名無 佳永子:「どうしよう。今から考えるだけで幸せで、胸が破裂しそう!」
    GM:歌うように言葉を紡ぐ少女の姿も、やがて、暗い影の中へと消えて行き──

    GM:……………………
    GM:…………
    GM:【家の中】

    GM:……いつしかあなた達二人は、なんの変哲も無いように見える、一件の家屋の中に居た。
    GM:平凡な一般家庭のような間取り──まぁ、いささかに広々とした家ではある。高収入の世帯であろう。
    GM:家の中に、人の気配は、無い。
    GM:あの少女も含めて、だ。
    眞守 雪斗:(ここは? ……幻覚を見せられているのか?)
    眞守 雪斗:辺りを見回す。一緒に座っていた男だけが、そこにいる。────先程の少女はいないようだ。
    眞守 雪斗:勿論、さざめもいない。
    緒環 伸:「……家、か」やはり辺りを見回す。
    緒環 伸:「なんだろうな、幻覚、精神世界、瞬間移動……」
    緒環 伸:「どっちにしろ、ろくな状況じゃなさそうだ、こりゃ」
    眞守 雪斗:「……空間形成、隔離。可能性は考えられるが、」
    眞守 雪斗:「ろくな状況じゃない。心底同意する」
    緒環 伸:「コーヒー、もう少しで飲み終わるとこだったんだぜ」虚勢を張るように冗談を飛ばす。
    眞守 雪斗:そういえば、『カフェラテ』を頼むのを忘れていたな、と思い出す。
    緒環 伸:「……外へは行けるかな」
    眞守 雪斗:──彼女ではなく、先程見知ったばかりの男と二人で部屋にいることが、ひどく妙な心地だった。
    緒環 伸:ドアがあれば、そちらの方へ行ってみる。
    緒環 伸:「すぐに出られて、外にはさざめちゃんが……ってのがハッピーエンドだけど」
    GM:では、いくらかこの空間の形容をしよう。
    GM:なんの変哲も無い民家のように見える。しかし、外へ出られないし、通信も行えないのだ。
    GM:ドアが動かない。
    GM:ドアノブは回るが、ドアは、もとからそういう壁であったかのようにびくともしない。
    GM:窓も同じだ。ただのガラスのように見える窓は不壊の壁。あなた達はこの家に閉じ込められていた。
    GM:住民は無し。生活の痕跡はある、掃除の行き届いた家だ。
    緒環 伸:「…………」数回ドアを開けようと試して。体当たりもして。
    緒環 伸:「無理だな。窓は?」
    眞守 雪斗:「全く動かないようだ」
    眞守 雪斗:通信機器も、電波が途絶している。
    緒環 伸:「困るなあ、違法建築じゃないかよ」
    眞守 雪斗:「……全くだ」
    眞守 雪斗:閉じ込めて一体何がしたい、と言おうとしたところで思い出す。
    緒環 伸:自分の方の電波も確かめて、また端末をしまう。
    眞守 雪斗:『だからお二人にも、お互いのことをもっと良く知ってもらいたいなあって』
    緒環 伸:「……家族って言ってたな。ここで暮らせってことか?」
    眞守 雪斗:「冗談にしては悪辣だな」
    緒環 伸:「もうちょっとかわいいやつがいいよな、冗談は」
    緒環 伸:「お父さんとお兄ちゃん、で、あの子が娘ってことか」
    眞守 雪斗:『父』に良い思い出を持たない自分が、『お父さん』の役を望まれた男と一緒にいる。冗談としては最悪の類だ。
    緒環 伸:「ほんとに」
    緒環 伸:「ひどい冗談だ」父というには若い顔を歪ませる。
    眞守 雪斗:「……妹、か」
    眞守 雪斗:「冗談なら────もっと、笑えるものにしてほしいな」
    緒環 伸:「雪斗くんにだっているよなあ、家族」
    眞守 雪斗:「…………」
    眞守 雪斗:「……さざめ以外は、もういませんよ」
    緒環 伸:「僕だって独身なんだぜ」
    緒環 伸:「……っと」
    緒環 伸:「それは悪い……悪かった」
    眞守 雪斗:「ここじゃ、良くある話でしょう」
    緒環 伸:「そうかもしれないけど、まあ、まあね」
    緒環 伸:「僕が気まずいんで、謝らせてくれ」
    眞守 雪斗:首肯で、謝罪を受ける。
    緒環 伸:「とにかく、ここを出ないことには話にならない」仕切り直しのように言う。
    眞守 雪斗:「さて…………どうしたものか」
    緒環 伸:「……方法は皆目見当がつかないけども……」
    緒環 伸:「探すしかない、か」
    眞守 雪斗:「……そうですね」
    緒環 伸:「よし、探そう。何か手掛かりがある!」
    緒環 伸:自分の顔を軽く叩いて。
    緒環 伸:「まあ、安心したまえよ、雪斗くん」
    眞守 雪斗:息を吐く。家族。リビング。────何もかも、ちりちりと記憶の片隅を焼くものばかり。
    眞守 雪斗:疑問符を浮かべつつ、緒環さんの顔を見る。
    緒環 伸:「僕はこれでも支部じゃね、最高のエージェントという栄誉をいただいてるんだ」
    緒環 伸:「……自称だけど」
    眞守 雪斗:その言葉に、初めて笑みを零し、
    緒環 伸:空元気でも、笑えないよりはずっとマシだと、そう思っている。
    眞守 雪斗:「ああ。頼りにさせていただこう」
    緒環 伸:(……やっと笑ったな)軽くほっとする。

    シーン2:静寂と絶望の夢


    GM:登場侵蝕!
    緒環 伸:緒環 伸の侵蝕率を+8(1d10->8)した(侵蝕率:52->60)
    眞守 雪斗:シーンイン:眞守 雪斗の侵蝕率:+3(1d10->3) ((侵蝕率:59->62))

    GM:では、シーンの描写を行う前になのですが。
    GM:対象、雪斗さんでのみE《衝動侵蝕》を宣言します。難易度9の衝動判定をどうぞ。
    眞守 雪斗:えっはい
    眞守 雪斗:(5+1)dx+1>=9
    DoubleCross : (6R10+1[10]>=9) → 10[1,2,3,3,3,10]+3[3]+1 → 14 → 成功

    GM:ちっ
    GM:では普通に侵蝕があがるだけだな!
    眞守 雪斗:おちついている
    眞守 雪斗:衝動判定:眞守 雪斗の侵蝕率:+14(2d10->10,4) ((侵蝕率:62->76))
    眞守 雪斗:落ち着いてないわ
    GM:OK!
    緒環 伸:がんばって
    GM:では軽い描写を行いますので、その後に緒環さんからの記憶共有をお願いします。

    GM:状況打破の手がかりを探し、あなた達は共に探索を進めていた──その時のことであった。
    GM:あなた達の調査は洗面所に及んだ。
    GM:コップが複数。それぞれに色の違う歯ブラシ。髭剃り。整髪料。
    GM:そういう、家族が住む家の洗面所として模範的な光景が、そこにあった。
    GM:逃散の仮定で──そうだな、眞守 雪斗、
    GM:おそらくはあなたが、洗面所の鏡に何気なく視線を向けた時であっただろう。
    GM:〝それ〟は発生する。
     :その時。
     :鏡の中のあなたの姿が、ぐにゃりと歪んだ。
     :歪んだ視界から、何かが流れ込んでくる。
     :鏡の中のあなたは、すぐ傍にいたはずの男の顔になる。
     :ただ、服は黒い喪服で……。
     : 
     :流れ込んでくる。知らないはずの記憶が。
     : 
     :エージェントとなる前の緒環伸の人生には、基本的に特筆すべき出来事というものはそれほどない。
     :穏やかで、平凡で、幸福で、少しばかり深みのない、そういう暮らしをしてきた。
     :オーヴァードになってからも、能力が功を奏したか、打ちひしがれる程の大きな不幸に巡り会うことはさほどなかった。
     :だから、そう、なかなか気づけなかったのだ。
     :運命を操れるなどと調子に乗っているうちに、ゆっくり、ゆっくりと違和感が積み重なっていったことに。
     : 
     :何年前のことだったろうか。
     :地元の友人が一人、しばらく病んでそのうち死去した。まだまだ若い上での不幸ではあったが、珍しいことではない。
     :顔の広い友人で、一通り厳粛に過ごした葬儀の後は、涙ながらにも久しぶりの同窓会、といった空気にもなっていた。
     :緒環伸も帰省してその場にいた。そうして、当然のように懐かしい友人達との二次会にも顔を出した。
     :小さめの座敷が貸し切りで、部屋を広く見せるためか、大きな鏡が置いてあったのを覚えている。
     :故人を偲ぶ会話や、それぞれの近況報告、昔の思い出話。
     :黒い喪服のままの彼らは、グラスを傾けながらぽつぽつと話を続けていた。やがて順番は、緒環の番になった。
    緒環 伸:「まあ、特に変わんないな。結婚もしてないし、仕事も……」
     :嘘はついていない。オーヴァードの能力を僅かに賭事に使って金を稼ぐようになってからも、仕事はだらだらと続けていた。
     :どことなく、居心地の悪い気配を毎日感じながら。
    緒環 伸:「気楽にやってるよ。いいところだよ、N市も」
     :ふと。
     :彼は周囲がそれまでよりも、不自然に静かなことに気づく。
     :皆、なんとなく口ごもって、どうにも不思議そうな顔をしている。
     :視線を上げる。
     :そう、そこには大きな鏡が置いてあった。
     :鏡映しの、黒い喪服のままの男女は皆、四十に届く少し手前の年頃。
     :生活にはくたびれ、顔にはちらほらと皺も見えてきた頃だ。体力や健康にも衰えが出ていると、そう語っていた者もあった。
     :そこにはほんの僅かに忍び寄ってきた、老いの、そしていずれ来たる死の気配があった。それなのに。
     :鏡の中の彼自身は、周囲と同じ年頃のはずの男は、まだずっと若い青年の姿をしていた。
     :そのつるりとした顔に、痩せた身体に、何よりそこにだけ老いと死の気配が感じられないことに、怪訝な視線が突き刺さっているのが、見える。
     :見られている。
     :異物として。
     :彼らの日常にそぐわない、奇妙な存在として。
     :目が。目が。目が。目が。
     :目が。
     :いや、最初からそうだったのだ。ずっと、気づかない振りをしていただけで。
     :どこに居ても、居場所などない。
     :その時はどうにかごまかして、早々に退出した。もう地元には帰らないだろう、と思った。
     :それから程なくして彼は、それまでの一般人としての生活を捨てた。
     : 
     :それが、あなたに見えた光景だ。
    GM:そうだ。あなたに見えた光景であり、
    GM:あなたが〝体験〟した光景だ。
    GM:眞守 雪斗。あなたはまるで、自分の記憶であるかのように、前述の事項を知るだろう。
    GM:……そうして、或いは。幻影を見るかも知れない。
    GM:〝体験〟が終わり、いつもと何も変わらぬ自分の顔が鏡に映った、その時、
    GM:その隣に……あなたが〝妻〟と呼ぶ女の、今より数十年も老いさらばえた顔が並ぶのを。
    眞守 雪斗:「────さざめ」 譫言のように、呟いた。
    眞守 雪斗:頬に、冷たい汗が流れるのを感じる。血色のない顔は、恐らく普段以上に白く染まっているだろう。
    緒環 伸:「ん?」辺りを調べていたところを振り返る。
    眞守 雪斗:(──今のは、何だ?)
    緒環 伸:「……どうした。顔色悪いぞ」
    眞守 雪斗:洗面台に両手を付き、身体を支えながら思案する。
    眞守 雪斗:「……いや……」 同行者の男の、顔を見る。
    緒環 伸:「鏡に何か?」
    眞守 雪斗:────その顔は、『記憶』の中の、鏡に映った顔に、そっくりだった。
    眞守 雪斗:「……地元の葬式。鏡」
    眞守 雪斗:「覚えは、ないか」
    緒環 伸:怪訝な顔で雪斗さんを見てから。
    眞守 雪斗:途切れ途切れ、吐き出すように言葉を紡ぐ。
    緒環 伸:「…………」すっと、にやけたような表情が消える。
    緒環 伸:「何?」
    緒環 伸:「……何を、え、いや、覚えは……」
    緒環 伸:「覚えは、あるけども……」
    緒環 伸:明らかに動揺をしている。
    眞守 雪斗:「…………恐らく、緒環さん。貴方の記憶を『視た』」
    緒環 伸:「記憶を……」
    眞守 雪斗:「すまない」
    緒環 伸:「……視」一瞬、泣きそうな顔になった。
    眞守 雪斗:故意であろうとなくとも。これは、他人が勝手に視ていいものではない。
    緒環 伸:「……や」
    緒環 伸:「いや。大したことじゃなかったろ、僕の記憶なんざ」
    緒環 伸:「むしろ妙なもの見せてこっちがごめんだ。はは」
    緒環 伸:顔がまだ少し、青ざめて引きつっている。
    眞守 雪斗:「…………」 返す言葉が、見つからなかった。思い付くどの言葉も、ここで掛けるものではないように思えた。
    GM:その、強がるような笑い声に唱和するように、
    名無 佳永子:──ふふ。
    GM:声が、聞こえた。
    緒環 伸:「……!」
    眞守 雪斗:「────お前が、『見せた』のか」
    GM:声は、その一度だけだ。故に答えは無いが。
    GM:それは満足げな、幸せに浸っているような、そんな声だった──そして。

    GM:では。
    GM:あなた達は、〝家族のこと〟をひとつ知りました。
    GM:ひとつ教えてもらったのだから、ひとつ教えましょう、
    GM:……と、彼女が言ったのかはさておいて。
    GM:あなた達の頭には、知識が流れ込んで来る。そこから、以下の事実を知るでしょう。
    情報項目:名無 佳永子
    【主観】
    4年前に事故で両親を失っているが、その時の記憶は無い。
    何か大規模な事故が発生したということを、後から役所の人間に聞かされた。
    特別な力だったり知識だったりは持ち合わせていない、平凡な学生だった。
    ……ある日、目を覚ますと、左手に指輪が填まっていた。それから世界の見え方が変わった。

    【客観】
    非オーヴァード。崩落戦で両親を失う。とりたてて特別なことは何もない娘。


    緒環 伸:「……今のは……」頭を押さえ、周囲を見る。
    眞守 雪斗:「……あの女の」
    眞守 雪斗:彼にとって、先程見せられたのが『大したことのない記憶』ではないことは、人の感情を推し量るのが苦手な自分にも分かった。
    眞守 雪斗:──強制的に見せられた記憶で、知った。緒環さんの、過去。
    緒環 伸:「……お父さん、か」呟く。
    眞守 雪斗:意図的に変えられるものなら、恐らく彼は年齢に応じた容姿に変化させているだろう。であれば──
    緒環 伸:「なあ、妙だと思っただろ? あの子がそう言ってた時」
    眞守 雪斗:彼の、『年齢よりも若く見える』という事象が指すものの可能性は、絞られる。
    緒環 伸:自分の顔を指差す。雪斗さんよりは少しだけ上くらいの年齢に見えるだろう。
    眞守 雪斗:「……幾つ、なんですか」
    緒環 伸:「実際、あれくらいの子がいてもおかしくないくらい」
    緒環 伸:「……42歳」
    緒環 伸:「君より少し上くらいのところで止まってる。覚醒した時らしい」
    眞守 雪斗:「それは────RVの特性によるもの、ですか」
    緒環 伸:「そう」
    緒環 伸:「UGNに入ってから、古代種、と診断された」
    眞守 雪斗:「……成程」
    緒環 伸:「……遅かったんだよな、いろいろ。本当に」
    眞守 雪斗:その声が、震えたように、聞こえた。
    緒環 伸:「君はあれ、どう思った? 自分自身で体験したとしたらさ」
    緒環 伸:「周りがどんどん歳を取って、自分だけ置いてかれる」
    緒環 伸:「……いや、ごめんな。普段はこういう愚痴みたいなの、あんまり言わないんだ」
    眞守 雪斗:孤独、だろうか。或いは、恐怖。どの言葉も、一言では足りないような気がした。
    眞守 雪斗:「……『見て』しまった責任が、ありますから」
    緒環 伸:「君は真面目だなあー」
    緒環 伸:「……真面目で良かったよ。さざめちゃんも嬉しいだろ」
    眞守 雪斗:「それが、彼女にとって「良いところ」だったようで」
    緒環 伸:「のろけられた。いいね」笑う。
    眞守 雪斗:「……からかわないで下さい。大体の人間は、面白みのない奴だと俺のことを言います」
    眞守 雪斗:「人の好みは──好き好きなようで」
    緒環 伸:「それはあれだよ、言う方が面白みを足せってんだよ」
    緒環 伸:「お似合いならそれでいいと思うがね、僕は」
    眞守 雪斗:「お似合い、だと良いですが」 あいにく、その手の評を受けるほど知られていない。
    緒環 伸:「並べてみなきゃわかんないよな。ってことで、再会のためにまた調査だ」
    眞守 雪斗:「そう、ですね」
    緒環 伸:まだ弱々しいが、それでも会話を経て少しばかりは調子を戻したように見える、そういう笑顔になった。
    眞守 雪斗:顔色は、元に戻っている。……そういうことにする。とかく、動かねば解決しない。
    眞守 雪斗:「……他の場所も見ましょう」 鏡に背を向け、再び廊下に踏み入れる。
    緒環 伸:その後ろについて、同じく廊下へ出て行く。
    GM:ならば。
    GM:おそらくはあなたが、玄関に何気なく踏み出した時であっただろう。
    GM:緒環 伸──予兆なくあなたの身に、〝それ〟は発生する。

    シーン3:凄惨な絶命の夢


    GM:登場侵蝕!
    緒環 伸:緒環 伸の侵蝕率を+2(1d10->2)した(侵蝕率:60->62)
    眞守 雪斗:シーンイン:眞守 雪斗の侵蝕率:+3(1d10->3) ((侵蝕率:76->79))

    GM:では、きっともうおわかりでしょうが。
    GM:緒環さんのみにE《衝動侵蝕》! 難易度9の衝動判定をどうぞ。
    緒環 伸:3dx+1=>9 思い出の一品使用
    DoubleCross : (3R10+1[10]>=9) → 7[2,4,7]+1 → 8 → 失敗

    緒環 伸:ぎゃー!
    眞守 雪斗:ぎゃー!
    GM:では、侵蝕上昇に加え、
    緒環 伸:緒環 伸の侵蝕率を+13(2d10->7,6)した(侵蝕率:62->75)
    緒環 伸:あがるー
    GM:今回の暴走で引き起こされる衝動は〝嫌悪〟で指定しましょう。

     :玄関に踏み入れた時。不意に、目眩がした。
     :意識がぼやけ────気付けば、学生服を着て。手には濡れた雨傘。
    ???:「ただいま」
     :一日、雨の降り続く寒い秋の日だった。既に陽は落ち始めている。
     :まだ声変わりの済んでいない少年の声が、玄関に木霊する。
     :家の中は、しん、と静まり返っていた。
     :いつもなら、妹二人の朗らかな声や、母が料理をする音が聞こえているはずの家。
     :明かりの落とされた室内は、静寂に沈んでいた。廊下、奥に見えるリビングのドア、その全てが闇に包まれている。
     :無造作に脱ぎ捨てられた二人の妹の靴が目に入る。母のサンダル。……そして、普段はこの時間にいないはずの、父の革靴。
    ???:「みんな、いるの……?」
     :小さくかけたはずの声が、奈落のように口を開けた静寂の中に、やけに大きく響いた。
     :しーん、と、静寂が、再び満ちる。鼓動が緊張で早くなり、耳に届く。
     :いつもの自分の家なのに、踏み込むことが怖かった。静まり返った暗闇に飲み込まれそうな恐怖を、本能的に感じていた。
     :──何分経っただろう。或いは、ほんの数十秒か。やがて、暗闇の中の孤独に耐えきれず、室内に足を踏み入れた。
     :緊張に張り詰めた呼吸をしながら、フローリングの床をゆっくりと踏みしめ、進んでいく。
     :リビングの扉の前に、立つ。ドアレバーに手を伸ばして、息を止めた。
     :すりガラス越し。ほんの僅か、その先に明かりが差しているのを感じて、息を深く吐く。
    ???:「…………」
     :きぃ、と軽い音を立てて、扉が開く。押し開く。
     :リビング内の空気が、どぶ、と廊下に溢れ出した。しかし、その空気には、強い金属じみた臭いが、噎せ返るほど強烈に混じっていた。
     :──血の臭いだった。
    ???:「うっ……!」
     :胃の腑に流れ込んだ悪臭。反射的に起こった強烈な吐き気に呻く。少年の脳内に、最悪の想像が渦巻く。恐怖で、頭が真っ白になる。
     :踏み出した足が、ぴしゃ、と音を立てた。直後、冷たい濡れた感触があっという間に靴下を通り抜け、足の裏に広がった。
     :──床が、ぐっしょりと濡れていた。
     :呼吸すらも忘れて硬直する。動けない。泣きそうだった。だが、かろうじて、視線だけを動かし──足元を、見る。
     : 
     :そこには、妹が二人。鏡合わせのように、床で眠っていた。
     : 
    ???:「ナナミ……? カナ……?」
     :向かい合わせのように横向きに投げ出された身体。手を繋いだ姿は、睦まじく映るだろうか。いや──
     :その眼窩に、鏡合わせのように、ナイフが刺さっていたとしてもか。
     :足に触れる冷たいものが、その眼窩からとくとく、と溢れ出したものだと気付き、戦慄した。
    ???:「…………!」
     :動けなかった。声すらも、出せなかった。
     :目に映るものが『現実』だと認識できず、がちがちと歯を鳴らして、立ち竦むことしかできなかった。
     : 
    眞守 理人:「雪斗」
     :暗闇の中から、低い男の声がした。父の声。恐怖に竦み、混乱した思考が、見知った声に安堵を求め、縋るように声の方向に目を遣った。
     :ぼんやりと、明かりが差したリビングの一角。見慣れたスーツ姿の父と、隣に座る母の姿を視界に捉える。
     :父の瞳は、見開かれていた。リビングに落ちる暗闇よりも尚、深い闇を湛えていた。
     :父の手は、何かを握っている。太い縄のような──その端は、母の首に繋がっていて。
     :母の瞳は、見開かれていた。いつも優しげな光を湛えていた、そこに嵌っている眼球は、虚ろな色をしていた。
     :母の口は、開かれていた。だらしなく流れ出した舌が、クエスチョンマークのように重力に従ってうねっていた。
     :──『どうして』と。その表情が、無言で語っていた。
     : 
     :父が歩み寄ってくる。ぴしゃ、ぴしゃ、と濡れた床を踏みしめてやってくる。
     :恐怖に震える身体。声を上げる間もなく、父の手が伸ばされる。首を無造作に掴まれる。まだ成熟していない身体は、抵抗に十分な力を持ち得なかった。
    眞守 理人:深い奈落のような瞳が、君の瞳を見据える。
    眞守 理人:……そこには、何も映ってはいなかった。
    ???:「が……! ……ッ……!!!」
     :爪が刺さり、皮膚が抉れる焼けたような痛みと、気管の潰れる苦しみと、意識の薄れていく感覚と、ひたひたと迫りくる闇と────
     :その中で、はっきりと、
     : 
    眞守 理人:『一緒に死のうか』
     : 
     :父の声が、頭の中に反響した。
    GM:──それが、あなたに見えた光景であり、
    GM:あなたが〝体験〟した光景だ。
    GM:緒環 伸。あなたはまるで、自分の記憶であるかのように、前述の事項を知るだろう。
    GM:……そうして、或いは。幻影を見るかも知れない。
    GM:『ナナミ』『カナ』、その名で呼ばれた少女達と同じ命運が
    GM:『   』『  』、同じく三音と二音の、同い年の少女二人に降りかかった悪夢を。
    GM:縊り殺された骸の顔が、子から見た母親がずっと長く生きているのと同じように、
    GM:あなたよりずっと長く永く生きている、誰かの顔に重なる絶望を。
    GM:……その幻影を以て。
    GM:そうだ。この幻影を以て初めて、あなた達の相互の体験は、
    GM:己の感覚に根ざした、本心からの恐怖となる。

    GM:では。
    GM:あなた達はまた、〝家族のこと〟をひとつ知りました。
    GM:ひとつ教えてもらったのだから、ひとつ教えましょう。
    GM:あなた達の頭には、知識が流れ込んで来る。そこから、以下の事実を知るでしょう。
    情報項目:指輪
    【主観】
    ただの女の子でしかなかった佳永子に力をくれる不思議な指輪。
    家族が欲しいと願ったから、きっとそれも叶えてくれる。

    【客観】
    装着者の精神を支配し、その肉体を仲介して能力を行使するEXレネゲイド。
    動機は不明だが、名無 佳永子の願望を叶えようとしている。
    Eロイス《愚者の契約》により名無 佳永子を支配。指輪のみを破壊することで解除が可能。

    名無 佳永子:──ふふふ。
    GM:また、声が聞こえた。

    眞守 雪斗:廊下を進み、玄関に辿り着く。──ふと、後ろについていた足音が途切れたことに気付き、振り返った。
    緒環 伸:「あ、あ、あ、あ、」その光景を"視た"瞬間、喉を押さえだす。
    緒環 伸:「やめ、やめろ」
    緒環 伸:「嫌だ」
    眞守 雪斗:「どうした……?」 明らかに異常な振る舞い。
    緒環 伸:膝をつく。そこには何もないはずなのに、おののくように後ずさる。
    眞守 雪斗:────可能性に思い当たる。何か、『見せられた』のかと。
    緒環 伸:「嫌だ。なんで……先に行っちゃうんだよ……」
    緒環 伸:「そんな……そんなのは」
    緒環 伸:「違うだろ」
    緒環 伸:それだけ言って、放心したようになり、ようやく雪斗さんの方を見た。
    眞守 雪斗:「落ち着け。……落ち着いてくれ、頼む」
    緒環 伸:「……視た」
    緒環 伸:「多分、さっきの君と同じようなやつだ」
    眞守 雪斗:「…………何を、視た」
    緒環 伸:廊下をおそるおそる触って、そこに何もないのを確かめる。
    緒環 伸:「……君の……家族の」
    緒環 伸:「多分そうだろう、さっきのことから考えると」
    眞守 雪斗:「…………」 爪が喰い込むほどに、拳を握る。
    緒環 伸:「『ナナミ』と『カナ』って呼ばれてた、その子達が……」
    緒環 伸:どう言えばいいだろう、あの痛ましい姿を。
    緒環 伸:「倒れて」
    眞守 雪斗:──振り返る。そこには、きっと緒環さんには『まだ』見えないだろうが、
    眞守 雪斗:ナイフをそれぞれ眼窩に穿たれた少女たちが、いる。
    眞守 雪斗:視線を切る。
    緒環 伸:「さっきの君の気持ちがわかった……いや」
    緒環 伸:「もっと申し訳ないな。本当に。あれは、おいそれと他人が視るべきじゃなかった」
    眞守 雪斗:「…………調べれば、UGNの記録にも載っていることです」
    緒環 伸:「記録は、音や匂いまでするかい?」
    眞守 雪斗:「気分の良いものでは、ないでしょう」
    眞守 雪斗:「……そこまで」
    眞守 雪斗:思い出す。思い出したくない。初めて、鉄錆の臭いを胃の腑深くまで吸い込んだ記憶など。
    緒環 伸:「嫌だったよ。嫌だったが、それは……酷い光景だったからじゃなくて」
    緒環 伸:「シンクロしちゃったからだろうな。自分と」
    眞守 雪斗:『嫌だ。なんで……先に行っちゃうんだよ……』
    眞守 雪斗:それは、単に記憶を『視た』だけでは、出ない言葉だろう。
    眞守 雪斗:緒環さん自身の事情と、情景が結びついて────より、嫌悪をもたらす光景になってしまった。
    緒環 伸:「まずいな……ここに来てからどうも、らしくないところを見せっぱなしだ」ぶつぶつ言う。
    緒環 伸:「年長者らしくやろうとは思ってるんだぜ、これでもさ」
    緒環 伸:よいしょ、と立ち上がる。
    眞守 雪斗:「無理は、しないでもらえると助かります」
    眞守 雪斗:「俺は──人を助けることには向いていない」
    緒環 伸:「向いてる奴なんてそうはいない」
    緒環 伸:「向いてない奴が、それでも頑張るから格好いい。そうだろ?」
    眞守 雪斗:「……そういうもん、ですかね」
    緒環 伸:「僕も大して向いちゃいないよ。でもまあ、君のことは助けるよう頑張るから」
    緒環 伸:「どうにかちゃんと帰ろう」
    眞守 雪斗:「……俺を助ける前に、自分が助かってくださいよ」
    緒環 伸:「君も助けなきゃ、あの子に何されるかわかんないだろ」
    眞守 雪斗:そうかもしれないが、それでも。
    緒環 伸:「知ってるだろ? さざめちゃん、めちゃくちゃ根が強いんだぜ」
    眞守 雪斗:「──さざめは、多分。緒環さんのこと、良く思ってるでしょうから」
    眞守 雪斗:「俺も力になりたいと。それだけです」
    眞守 雪斗:根が強い、という言葉に、唇の端を少しだけ上げて、笑った。
    緒環 伸:「……ふむ」
    緒環 伸:「君のことがまた少しわかったな。真面目でいい奴だよ」
    眞守 雪斗:「さて、どうだか」
    眞守 雪斗:ふい、と顔を逸して言う。
    緒環 伸:にんまり笑った顔は、では、そこからでは見えなかったろう。
    緒環 伸:(さざめちゃん以外の家族はもういないと、そう言っていたっけ)
    緒環 伸:(……あんな亡くし方をしていたら、きっと酷い傷になるだろう)
    緒環 伸:(たった一人の家族のことは、それは大切に思うだろうな)
    緒環 伸:自分を重ねることを強いて止めながら思う。
    眞守 雪斗:「……シンクロしたと、言いましたね」
    緒環 伸:「……ああ。ちょっと嫌なものを視た」
    眞守 雪斗:「……酷い想像をさせてしまった」
    眞守 雪斗:誰が、彼にとっての「ナナミ」と「カナ」だったかは、分からない。だが、大切な人なのだろう。
    緒環 伸:「君は、さっきそういうのはなかったのかな」
    眞守 雪斗:「…………鏡に、さざめの姿が見えました。随分、先の姿のようでしたが」
    緒環 伸:「じゃ、おあいこだ」
    眞守 雪斗:自分だけが残される恐怖。──目の前の彼は、ずっとそれを事ある度に意識してきたのだろう。
    緒環 伸:「どっちかというとあれだろ」
    緒環 伸:「君が謝るのは筋が違うと思うんだよな。あれを見せたさっきの子だろ」
    眞守 雪斗:「確かに」
    緒環 伸:「いや、指輪が悪いんだっけか。とにかく、僕らは悪くないだろ」
    緒環 伸:「悪くないんだ」自分にも言い聞かせるように。
    緒環 伸:「何かしんどい思いをした奴がそれを掘り返されて、さらに謝んなきゃいけないなんてのは、おかしい」
    眞守 雪斗:それを肯定するように、しっかりと頷く。
    緒環 伸:「そういうことにしとこう」
    眞守 雪斗:「そう考えるほうが、ずっと気が楽です」
    眞守 雪斗:「助けられてますよ、緒環さん。──進みましょう」
    緒環 伸:「それはよかった。……そうだな」
    GM:──では。その声に応じるように、だ。
    名無 佳永子:ふふふ。
    GM:と、笑う声が聞こえた。
    GM:……今度は明瞭。二階からの声である。

    GM:ロイス取得&調達2回が可能!
    緒環 伸:ロイス 眞守雪斗 ○誠意/緊張 名無佳永子 同情/○憤懣 眞守さざめ ○親愛/いつの間に
    眞守 雪斗:同行者/緒環伸 P:◯連帯感/N:同情  名無佳永子 P:興味/N:○憤懣
    緒環 伸:雪斗くんのアルティメイド服を手配師使用してチャレンジします。
    緒環 伸:8dx+2=>20
    DoubleCross : (8R10+2[10]>=20) → 10[2,3,3,5,7,7,8,10]+10[10]+10[10]+4[4]+2 → 36 → 成功

    緒環 伸:たかいよ
    眞守 雪斗:気合い入り過ぎでは?!
    緒環 伸:雪斗くんどうぞ!
    緒環 伸:次、自分用ブルーゲイル!
    緒環 伸:5dx+2=>20
    DoubleCross : (5R10+2[10]>=20) → 10[1,6,7,9,10]+8[8]+2 → 20 → 成功

    緒環 伸:!?
    眞守 雪斗:えっ……はい……頂きます……
    眞守 雪斗:強い……!
    緒環 伸:はい、ゲットします……
    緒環 伸:??
    眞守 雪斗:じゃあブルーゲイルおかわり分を
    眞守 雪斗:(2+1)dx+2>=20 購入判定
    DoubleCross : (3R10+2[10]>=20) → 5[2,4,5]+2 → 7 → 失敗

    眞守 雪斗:もういっちょ
    眞守 雪斗:(2+1)dx+2>=20
    DoubleCross : (3R10+2[10]>=20) → 6[1,1,6]+2 → 8 → 失敗

    眞守 雪斗:流石に厳しい。終了です
    緒環 伸:ざんねん! しかし目的は揃った
    GM:さくさく行ったな
    緒環 伸:以上です!
    GM:では

    クライマックス:ささやかな幸せの記憶


    GM:全員登場
    緒環 伸:緒環 伸の侵蝕率を+4(1d10->4)した(侵蝕率:75->79)
    GM:全員も何も二人だわ
    眞守 雪斗:シーンイン:眞守 雪斗の侵蝕率:+9(1d10->9) ((侵蝕率:79->88))

    GM:──二階から声が聞こえた。
    GM:一度探索を済ませていた筈の二階には、いつのまにか、新しいドアが不得手いた。
    GM:ドアを潜った先はやはり平凡な住宅の一室、整理整頓の行き届いた私室であった。
    名無 佳永子:そこで、名無 佳永子は待っていた。
    名無 佳永子:「お帰りなさい、お父さん、お兄ちゃん」
    緒環 伸:「お帰りも何も、今から帰りたいんだけどな、ここから」
    眞守 雪斗:嫌悪に近い感情が浮かぶ。──家族と簡単に呼ばれることを、心が拒否していた。
    緒環 伸:……お父さん、と。呼ばれることがあればどれほどいいだろう、と思ったことはある。
    緒環 伸:だがそれは、この少女相手にではない。
    名無 佳永子:「ここが、みんなの帰ってくる場所だよ」
    眞守 雪斗:妹は、死んだのだ。そして、今も。──後ろに、立っている。
    名無 佳永子:「他のどこかじゃない。ここが、みんなの帰る場所……おうちなの」
    緒環 伸:「指輪を」
    緒環 伸:「渡しなさい」
    眞守 雪斗:「生憎、俺にとってその場所は────もう、一つしかない」
    名無 佳永子:「いやだ!」
    緒環 伸:居場所が欲しいと思ったことも、いくらでもある。
    名無 佳永子:「指輪も、二人も、渡さない!」
    緒環 伸:だがそれは、ここではない!
    名無 佳永子:左手を、背に隠し。
    名無 佳永子:「……私ね、今までずっと一人で頑張ってたんだよ」
    名無 佳永子:「お父さんがお仕事をサボって休憩してる時、私はそこのキッチンで働いてたし」
    名無 佳永子:「お兄ちゃんが放課後に雨宮さんを連れてきた時も、私はやっぱりバイトしてた──あのパフェ、私が作ってたのに」
    名無 佳永子:「……みんながいなくなってから、私にはなんにもなかった!」
    名無 佳永子:「お金だって、時間だって、自由だって……楽しいことだって!」
    名無 佳永子:「ううん、なんにもなかったんだけど、これからは違う」
    名無 佳永子:「だってこれからは、二人が家族だもん」
    名無 佳永子:「お母さんだって探す。お姉ちゃんも欲しいし、かわいい妹も欲しいな」
    名無 佳永子:「四年間を取り返せるくらいたくさん、家族が欲しい!」
    眞守 雪斗:「家族は、戻らない」
    眞守 雪斗:失われた者は戻らない。父も、母も、妹も。この世にはいない。
    眞守 雪斗:孤独に生きることを、この少女は耐えられなかったのだろう。だが、
    眞守 雪斗:「────他人から家族は、奪えない。奪わせない」
    眞守 雪斗:普段細められた瞳が真ん丸になった時の、さざめの顔を思い出す。愛しい女。俺の、帰る場所。
    眞守 雪斗:眞守さざめのロイスを、Sロイスに指定します。
    緒環 伸:「……君が辛い目に遭ったのはそうだよな。でも、それは僕の辛さとは違う」
    緒環 伸:「僕の辛さと雪斗くんの辛さも違う」
    緒環 伸:「痛みを分け合うとかそういうのって、あれは違うだろ」
    緒環 伸:「あれが……君にとって家族の証なら。僕は」微かに手が震えた。
    眞守 雪斗:頷く。過去の痛みを知った。だが、それは『それぞれ』のものだ。
    緒環 伸:「そんな家族の一員になるなんて、ごめんだ」
    緒環 伸:「悪いね」これは、本当に、残念そうに。
    緒環 伸:「僕は『お父さん』にはやっぱり、なれそうにない」
    眞守 雪斗:隠しているものもあるだろう。話していないことも、あるだろう。それでも、家族にはなれる。
    眞守 雪斗:時が来れば話そう。きっと、さざめとなら。それが出来る。
    眞守 雪斗:「俺にとって、妹は────後にも先にも二人だけだ」
    名無 佳永子:「……大丈夫、ですから」
    名無 佳永子:少女の背後で、赤い光が立ち上る。
    名無 佳永子:背に隠されていた左手が正面に回された時、
    名無 佳永子:その指輪は、飾る石ばかりかリングの本体までもが、血の赤黒さに満たされていた。
    名無 佳永子:「大丈夫、だって」
    名無 佳永子:「だって、だって、だって」
    名無 佳永子:「家族がいるって幸せにくらべたら、他のことなんでどうでもよくなるくらい」
    名無 佳永子:「思い出すだけで声を上げて泣きたくなるくらい、幸せだったんだから……!」
    GM:……狂気に取り憑かれている、と言おうか。
    GM:この少女の言葉は、幾分かは真実であるのだろう。
    GM:だが。
    GM:今、大気を揺らすほどの波となって放たれたレネゲイドの奔流は間違い無く、
    GM:彼女が左手に身につけた、指輪から放たれたものである。
    GM:衝動判定! 難易度は9!
    眞守 雪斗:うおー
    眞守 雪斗:(5+2)dx+1>=9 衝動判定
    DoubleCross : (7R10+1[10]>=9) → 10[5,6,6,6,6,10,10]+10[3,10]+6[6]+1 → 27 → 成功

    緒環 伸:3dx+1=>9 思い出の一品使用
    DoubleCross : (3R10+1[10]>=9) → 9[4,6,9]+1 → 10 → 成功

    眞守 雪斗:どうした???
    緒環 伸:すごい
    GM:ものっそい拒絶だ
    GM:では
    眞守 雪斗:衝動判定:眞守 雪斗の侵蝕率:+13(2d10->8,5) ((侵蝕率:88->101))
    緒環 伸:緒環 伸の侵蝕率を+9(2d10->8,1)した(侵蝕率:79->88)
    エンゲージ
    名無 佳永子[8]

    10m

    緒環 伸[8] 眞守雪斗[11]

    GM:・ラウンド1
    GM:セットアップ!
    眞守 雪斗:▼セットアップ 《原初の黄:ソードマスター》 侵蝕[+3]
    眞守 雪斗:対象:単体 射程:至近 武器1つを選択。ラウンド間、選択した武器による攻撃の達成値を[+12]
    眞守 雪斗:対象は自身の「ナックルダスター」 以上!
    眞守 雪斗:眞守 雪斗の侵蝕率:+3 ((侵蝕率:101->104))
    名無 佳永子:≪加速装置≫  行動値を+6して14になる
    緒環 伸:ブルーゲイル使用。行動値と侵蝕が+5します。行動値13に。
    緒環 伸:緒環 伸の侵蝕率を+5した(侵蝕率:88->93)
    GM:では、イニシアチブ。行動値14の名無からだ
    名無 佳永子:マイナーアクション、≪ポルターガイスト≫。対象はインプラントミサイル……攻撃力を12上昇させる!
    名無 佳永子:そしてメジャー、≪コンセントレイト:オルクス≫+≪空間歪曲射撃≫+≪要の陣形≫+≪アームズリンク≫+≪雷光撃≫+≪MAXボルテージ≫ 対象はもちろんPC二人ともだ。
    名無 佳永子:使用武器はリニアキャノンで判定いくぜ!
    名無 佳永子:10dx7 命中判定、ドッジダイス−2個
    DoubleCross : (10R10[7]) → 10[1,2,2,2,3,6,6,8,8,10]+10[3,5,10]+5[5] → 25

    眞守 雪斗:(1-2+3)dx>=25 ドッジ
    DoubleCross : (2R10[10]>=25) → 9[2,9] → 9 → 失敗

    緒環 伸:ドッジするしかない……
    緒環 伸:1dx+1=>25
    DoubleCross : (1R10+1[10]>=25) → 4[4]+1 → 5 → 失敗

    名無 佳永子:3d10+32 装甲有効ダメージ
    DoubleCross : (3D10+32) → 22[4,10,8]+32 → 54

    緒環 伸:倒れてリザレクトします。
    緒環 伸:緒環 伸の侵蝕率を+4(1d10->4)した(侵蝕率:93->97)
    緒環 伸:HP4で復活。
    眞守 雪斗:装甲10点差し引いても吹き飛ぶ! 名無佳永子のロイスをタイタス化、昇華で復活。HP11
    GM:OK、では演出は後に回して手番は行動値13の緒環さん!
    緒環 伸:マイナーで2m後退してエンゲージ切ります。
    緒環 伸:あんまり意味はないが
    緒環 伸:メジャー、コンボ『ラケシス、糸を計れ』。《導きの華》《光射す場所》《要の陣形》。侵蝕9上昇。
    緒環 伸:対象は雪斗さんと自分の二人。次のメジャーアクションの達成値が+21されます。
    緒環 伸:緒環 伸の侵蝕率を+9した(侵蝕率:97->106)
    眞守 雪斗:+21……暴力だ……!
    GM:えっぐいわぁ……
    緒環 伸:以上!
    GM:では、行動値11の雪斗さん!
    眞守 雪斗:▼マイナー 《拡散する影》 侵蝕[+3]
    眞守 雪斗:そのメインプロセスで行う攻撃の判定のDを-[【精神】以下の任意の数]個し、その判定の達成値+[減らしたダイス数*LV](最大20)する
    眞守 雪斗:減少数は[5]個。達成値を[+20]する。
    眞守 雪斗:眞守 雪斗の侵蝕率:+3 ((侵蝕率:104->107))
    眞守 雪斗:▼メジャー“「一緒に死のうか」” 《原初の赤:サイレンの魔女》《ダンシングシミター》 侵蝕[+9]
    眞守 雪斗:対象:シーン(選択) 射程:視界 対象は名無
    眞守 雪斗:(0+3)dx+4+12+20+21
    DoubleCross : (3R10+4+12+20+21[10]) → 3[2,3,3]+57 → 60

    GM:わぁ
    緒環 伸:たかい
    眞守 雪斗:ピッタシカンカン
    眞守 雪斗:あっアルティメイド服の+3
    眞守 雪斗:忘れてました。桁上がりませんが……
    緒環 伸:妖精が必要でしたら言ってね
    名無 佳永子:ガード! と≪磁力結界≫! ガード値を+2Dするぜ
    名無 佳永子:2d10
    DoubleCross : (2D10) → 16[8,8] → 16

    GM:toiu
    眞守 雪斗:んー、妖精の手はステイで!
    GM:ということでダメージ来いや!
    緒環 伸:おけ!
    眞守 雪斗:7D10+30+1D10
    DoubleCross : (7D10+30+1D10) → 46[7,8,8,2,4,7,10]+30+10[10] → 86

    眞守 雪斗:なんか殺意もりもりですね
    緒環 伸:たかい
    GM:マジ?
    GM:8d10で56?
    GM:ガード値が16で、70通しなので……
    GM:……普通に死にますね
    眞守 雪斗:わぁい
    緒環 伸:やったー
    GM:こんちきしょう!
    眞守 雪斗:眞守 雪斗の侵蝕率:+9 ((侵蝕率:107->116))

    GM:──対峙した状態から、何という切っ掛けも無しに戦いは始まった。
    GM:先手は、武器を手にするでもなければ、レネゲイドコントロールによる炎やら暴風やらを生むでも無く。
    名無 佳永子:「……〝見せてあげて〟!」
    名無 佳永子:「私も知らない私の記憶を……二人に!」
    名無 佳永子:指輪が、輝く。
    名無 佳永子:その光の中から現れたのは、重武装の兵士達である。
    名無 佳永子:二人ならば或いは、それがFHの一般戦闘員が良く用いているボディアーマーや自動小銃であると判断できるだろう。
    名無 佳永子:四年前の記憶。
    名無 佳永子:処理され、消えてしまった筈の記憶の再現。
    名無 佳永子:兵士達は小銃弾を乱射する──標的は無論、彼女の記憶の通り。即ち〝家族〟!
    眞守 雪斗:────数多見た一般人の死体の中に、名無の家族もいたのだろう。
    眞守 雪斗:これを『顕して』、見たくないものを見てまで──家族とは、彼女の欲するものなのだろう。
    眞守 雪斗:あの日、眞守もどこかで。銃弾に貫かれて地に伏せたことがあった。
    眞守 雪斗:スーツを穴だらけにしながら、地獄のような戦場を駆けた。
    眞守 雪斗:忌まわしい記憶と言うなら、あの日いた誰にだってそうだ。
    眞守 雪斗:──だが、それでも。その『願い』を、肯定することは出来ない。その決意を持って、立ち上がる。
    緒環 伸:緒環伸は、崩落戦を知らない。ちょうど、市外に出ていた。
    緒環 伸:あの時……友人の葬式の日が、そうだった。
    緒環 伸:帰ってきてからは、『災害』の様子に愕然としたものだ。
    緒環 伸:だから、彼女の本当の苦しみは、わからない。
    緒環 伸:わからないまま、立ち上がる。
    緒環 伸:倒れたままでは、本当に"家族"になってしまうと、そう思って。
    緒環 伸:……思って、目を細める。彼の呪いであり、祝福でもあるその力を振るうために。
    緒環 伸:あの日以来ずっと、彼の目には事象を繋ぐ糸が見える。
    緒環 伸:それをどうにでも操れると思い上がっていた時もあった。間違いだ。
    緒環 伸:彼は……人はいつも翻弄されるばかりで。目の前の少女も同じことだ。
    緒環 伸:(家族。家族な。欲しいよな……わかるよ。でも)
    緒環 伸:昔の家族は半ば捨ててしまった。恋する相手は、当たり前の家族になれるような人ではなく、子を得ることもできず。
    緒環 伸:(でも、やっぱり君と僕の苦しみは、違う)
    緒環 伸:糸を引く。会ったばかりの彼の使う能力は正確にはわからない。
    緒環 伸:だが、きっと上手くいくとその祝福を信じて。
    緒環 伸:彼はその糸の名を、運命と呼ぶ。
    眞守 雪斗:くい、と糸引く感覚を、背に感じた。
    眞守 雪斗:──ほんの微弱な、ともすれば感じ取れないほどの。
    眞守 雪斗:引かれた部分に、僅か。仄かな熱を、温かみを得た。
    眞守 雪斗:それを拠り所にすれば、呑まれることはない。その確信を持って、
    眞守 雪斗:記憶の蓋をこじ開ける。自身の原点。忌まわしき光景が、鮮やかに脳裏に蘇る。
    眞守 雪斗:背後の影が黒く落ちる。壮年の男女が、年若き少女が、その他様々な苦悶の表情を浮かべた者達が、そこにいる。
    眞守 雪斗:背後の彼にも見えるだろう。そこに集う者たちが、眞守の『家族』と同じ顔をしていることが。
    眞守 雪斗:“葬列”。眞守の両親であり、妹であり、手に掛けた者達が囚われた、魂の行き先。骸の成れの果て。
    眞守 雪斗:その中から、一対の影が飛び出していく。
    眞守 雪斗:鏡合わせのように右と左の眼窩にナイフを穿たれた、『ナナミ』と『カナ』が、
    眞守 雪斗:互いのナイフを引き抜き。躍るように跳躍し────名無 佳永子に斬り掛かる。
    眞守 雪斗:後を追うように、“葬列”が殺到する。嵐が、起こる。
    眞守 雪斗:────いつもは、滅茶苦茶な動きをする『彼ら』が、ひどく規則的に、
    眞守 雪斗:正確に、操れる。その感触に、後ろを振り向いた。
    緒環 伸:にっ、と笑ってそれに応える。
    緒環 伸:会ったばかりだ。前からの友人でも家族でもない。年齢にも差がある。
    緒環 伸:だが、わかる、と感じた。
    眞守 雪斗:糸を引くように、つい、と右手を上げる。
    眞守 雪斗:まさに名無 佳永子に刺さるはずだったナイフが、空中でぴたり、と静止し、
    眞守 雪斗:つい、と右手を下ろせば、
    眞守 雪斗:その二振りのナイフも、後を追う嵐も、全てが────一点に、集約する。
    眞守 雪斗:全ての元凶。指輪に、“破壊”の力を凝集させる!
    名無 佳永子:少女は、
    GM:否。
    GM:指輪は、その攻撃に対応を図る。
    GM:己が体を持たぬからこそ、支配した人間の体を容易に手放しはしないのだ。
    GM:迫る二つの刃。
    GM:脆い肉体で受け止めるのではなく、刃が進む距離の分だけしっかりと後退して回避せんとした。
    GM:その歩みはまるで戦闘熟練者の如く、澱みが無い。
    GM:……だが。
    GM:だが。指輪の見極めた距離の計算を狂わせる〝運命〟がそこにあった。
    GM:ナイフは、指輪に届く。そして──
    GM:ぱきっ
    GM:嵐の破壊音に紛れて、小さな、本当に小さな音が鳴った。

    12/23、23:18


    GM:──その母親は〝家族〟というものを何より大事にしていた。
    GM:家族の間に隠し事があってはならない。それは絆を壊してしまうと心から信じていた。
    GM:或る日、彼女は、息子が学習机の引き出しに鍵を掛けている事に気付いてしまった。
    GM:母親に見せられないものがあるなんて! お仕置きと称して彼女は、息子をベランダに出した。
    GM:寒い冬だった。
    GM:彼女が外出している間に、息子は吹雪と同じ温度に成り果てていた。
    GM:真実の愛情から始まった行為だったので、母親は深く嘆き哀しみ、息子の骸の傍を動かなかった。
    GM:結婚指輪に零れた血の涙は、ルビーよりも赤かった。
    GM:その理由が愚かさであれ、身勝手さであれ……〝彼女〟は、悲しい色に染まった指輪だった。

    バックトラック


    GM:Eロイスは《衝動侵蝕》×2と《愚者の契約》なので3個!
    眞守 雪斗:振る振るー
    GM:振ったり振らなかったりロイス分のダイスを振ったり色々どうぞ!
    眞守 雪斗:116-3d10
    DoubleCross : (116-3D10) → 116-12[1,4,7] → 104

    緒環 伸:振らないで一倍!
    眞守 雪斗:残り3個通常振り!
    眞守 雪斗:104-3d10
    DoubleCross : (104-3D10) → 104-20[6,10,4] → 84

    緒環 伸:104-5d10
    DoubleCross : (104-5D10) → 104-16[3,3,1,5,4] → 88

    眞守 雪斗:帰還!
    緒環 伸:無事帰還!
    GM:では、シナリオ2点にEロイス3点、いつもの5点のセットを合わせた10点に
    GM:侵蝕とかSロイスとかを合わせたのがそれぞれの取り分!
    眞守 雪斗:10+5+5で20点!
    緒環 伸:15点!
    GM:たぶん私が17点!

    ED:きっと明日もいい日になるさ。


    GM:……ふと気付くと、あなた達は喫茶店のテラス席で、向かい合って座っていた。
    GM:手元の時計か、スマートフォンかで時間を確認したならば、眞守 さざめが離席してからまだ何分も経っていないと分かるだろう。
    眞守 雪斗:視線を上げる。──緒環さんの存在を確認する。
    眞守 雪斗:一つ、安堵の息を吐いた。
    緒環 伸:時間を見ていた端末の画面から顔を上げる。
    緒環 伸:こちらも、力が抜けたように、少しずるりと椅子の上を滑る。
    眞守 雪斗:「……解放された、ようですね」
    緒環 伸:「……無事脱出、かな」
    緒環 伸:少しだけ残ったコーヒーを飲む。やはり冷めてはいるが。
    緒環 伸:「うん。美味い。多分、現実だろ」
    眞守 雪斗:自分も、倣ってコーヒーを口に運ぶ。
    眞守 雪斗:「現実でしょう」
    緒環 伸:「てことは、さざめちゃんもじきに帰ってくるかな」
    眞守 雪斗:「恐らくは」
    眞守 雪斗:忘れない内に、頼まれていたことを。店員を呼び、『カフェオレ』を注文する。
    眞守 雪斗:「戻ってきて頼むのを忘れていたと言えば、きっと拗ねる」
    眞守 雪斗:くく、と少しだけ笑う。
    緒環 伸:「さすがによく知ってるな」
    眞守 雪斗:「……親しい仲になったのは、ほんの最近で」
    眞守 雪斗:「多分、俺の知らないことで、緒環さんが知っていることもあるでしょう」
    緒環 伸:「……まあね」どこまで話していいものかと思いながら。
    眞守 雪斗:例えば、小さい約束の話、とか。
    眞守 雪斗:「それでも──家族にはなれてると、思いたい」
    緒環 伸:「うん」
    眞守 雪斗:「さざめが、それを望む限りは」
    緒環 伸:「あの子が話したいと思ったら、その時話すだろ」
    緒環 伸:「そしたら、聞いてやってよ。きっとそれでいいんだよな」
    緒環 伸:「知らんけど」冗談めかしてごまかす。
    眞守 雪斗:卑屈な笑みでなく、柔らかく笑う。
    緒環 伸:「一緒に」
    緒環 伸:「生きてあげてほしい」
    眞守 雪斗:「そのつもりです」
    緒環 伸:「一応僕は、知り合いにはもれなく幸せになってもらいたいからね」
    眞守 雪斗:「共に堕ちる地獄まで、と。聞いていますから」
    緒環 伸:「君もだ。今日加わった」
    緒環 伸:「……怖いことを言うなあ」
    眞守 雪斗:少し、目を見開く。すぐに、元の形に戻るが。
    眞守 雪斗:「……俺には、そういう声を掛けてくれる知人は、乏しいですから」
    眞守 雪斗:ありがとうございます、と添える。
    緒環 伸:幸せになって、そうして、幸せなままで、ゆっくり見送らせて欲しい、と。
    緒環 伸:それが彼の、今の長期的な望みだ。
    眞守 さざめ:……そうしてあなた達が話していると、当の本人が、怪訝な顔をして戻ってくるのが見えるだろう。
    眞守 さざめ:すす、と普段通りの摺り足のような進み方で席へ戻って、
    眞守 さざめ:「電話、ちゃんと聞こえませんでした。なんだったのやら────あら?」
    眞守 さざめ:「なにやら、おふたりとも。少し見ないうちに、急に親しげな雰囲気になられまして」
    眞守 雪斗:「……さて、どうだか」
    緒環 伸:「何、男子三日会わざればうんちゃらってやつでしょ」
    緒環 伸:くすりと笑う。
    眞守 雪斗:「少し『思い出話』をしていただけだ」
    緒環 伸:「それそれ」
    眞守 さざめ:「……おや。私にはあまり、その類いの話を聞かせたくれた覚えはありませんが」
    眞守 さざめ:ぷぅ、とわざとらしく頬を膨らませてみせたその顔は、
    眞守 さざめ:眼を細めてはいなかった。
    眞守 雪斗:「訊かれなかったからな」 事も無げに言うが、その表情に────ひどく、自分が安堵しているのを感じた。
    眞守 さざめ:「あまり私を仲間はずれになさいますと、お二人にねだるものの〝ぐれーど〟が上がりますが、お覚悟はよろしゅうございますか?」
    緒環 伸:二人の様子に目を細める。
    緒環 伸:二本の小指を結ぶ糸が見えたかどうかは……定かではないが。
    緒環 伸:「ねだるもの」
    眞守 さざめ:「はい。雪斗さんにはお夕飯を。緒環さんには……」
    眞守 さざめ:「……そうですね。三年後のお約束、前倒しにしてくださってもよろしいのですよ?」
    緒環 伸:「あ」間抜けな声が出る。
    眞守 雪斗:「約束?」
    眞守 さざめ:「?」その反応に、自分はおかしな事を言ったのかと首を軽くかしげて、
    眞守 雪斗:小さな約束。多分、緒環さんがさざめと交わしたという──
    眞守 さざめ:それから、口元を手で隠してクスクスと笑う。
    緒環 伸:「……やっぱりそれ続行なの、か」
    眞守 さざめ:「ああ、そういえば雪斗さんにはまだお話をしておりませんでした。よい機会です、取り立て人は多い方が良い」
    眞守 さざめ:「実は」
    緒環 伸:「取り立て人て」
    眞守 さざめ:「実はこちらの老けない人なのですが、いわゆる〝古代種〟と呼ばれる類いのおーばーどでございまして」横からの指摘を何処吹く風と説明する
    緒環 伸:「はい、老けない人です」とほほ、という顔。
    眞守 雪斗:既に知ってしまっている話。驚愕もなくそれを聞いている。
    緒環 伸:「それさっき話したんだよ、一応」
    眞守 さざめ:「おや、そこまで。ならば随分と話しは早くなりましょう」
    眞守 さざめ:「雪斗さん。私、実はこの方と同じような長命の者となりたいのです」
    眞守 さざめ:あのアクセサリが欲しい、という程度の気軽さで、そんな言葉を発した。
    眞守 雪斗:「長命の者……」
    緒環 伸:はー、と息を吐く。
    緒環 伸:(さっきの僕の気遣いはなんだったんだろうな……)
    眞守 雪斗:「そうか。3年後が予定だったのか」
    緒環 伸:「いや、僕はそれは保証できないっつったよ?」
    眞守 さざめ:「私、待たせているひとがいるのです。何百年も生きていて、誰も一緒に歩けない寂しいひと」
    眞守 さざめ:「私はそのひとの友たりえませんでした。だからこそ力をつけ、必ずまた会いに行くと約束したのです。一方的に」
    眞守 さざめ:「れねげいどうぃるすなるもの、血中にも存在するとか。故に、緒環さんの血を分けていただいて、同じ古代種になれはしないか……試してみたい、というのが」
    眞守 さざめ:「その、三年後の約束でございました」
    眞守 雪斗:「成程」 腕を組み、短く言葉を返す。
    緒環 伸:「せめて成人してからの方がいいだろって思ったんだよ」補足する。
    眞守 雪斗:「──随分、大きな野望を抱えたものだ」
    緒環 伸:三年も経てば気分も変わるかもしれない、という希望的観測もあった。
    眞守 さざめ:「別に、そのひとの為だけでもないのですよ」
    眞守 さざめ:「老いぬ体を得られるとなれば、この身が老いて技を失うという、武術に携わるもの全ての苦しみからも解放される」
    眞守 さざめ:「正直に言ってそれは好ましい──と思っていたのですが、ひとつ問題が生じまして」
    眞守 雪斗:「問題?」
    眞守 さざめ:「はい」
    眞守 さざめ:椅子の上で体を回して、緒環 伸に正面から向き直り、
    眞守 さざめ:「緒環さん」
    緒環 伸:空になったカップを、飲むでもなく口に当てて揺らしていた。
    緒環 伸:「……はい」
    眞守 さざめ:「いただく血、ふたり分をお願いすることはかないますでしょうか」
    緒環 伸:「だよなー! 絶対にそう来ると思ったんだよ」
    緒環 伸:手で顔を覆う。
    眞守 雪斗:交互に、さざめと緒環さんの顔を見る。二人分?
    緒環 伸:「ええー、なんかうやむやにできないかなって思ってたんだけど、そっちコースか……」
    眞守 雪斗:「つまり、俺も、ということか」
    眞守 さざめ:「はい。冷静に、かつ慎重に検討してみたのです」
    眞守 さざめ:「その検討の結果、雪斗さんも私と同じになっていただくのが最善、かつ最短の解決策ではないかと」
    緒環 伸:「……僕は」
    緒環 伸:「その……あんまりいい思いしてないんだよ、老けないってとこで。特にここ何年かは」
    緒環 伸:な、と雪斗さんに目をやる。
    眞守 雪斗:ほんの少し、顎を引く。肯定。
    眞守 雪斗:実感を伴った、同意だった。
    眞守 さざめ:「……私が追いかけようとしているひとも、きっと同じことを言うでしょう」
    緒環 伸:「そんなに人に味わわせたい気持ちでは、ない」それを、視せてしまったのだが。
    眞守 雪斗:「『一緒に生きてあげてほしい』」
    眞守 雪斗:「……そう、俺に望むなら」
    眞守 雪斗:「──俺は、さざめの望みを、できるだけ叶えたい」
    緒環 伸:「そ」
    緒環 伸:「そっちコース……!」
    緒環 伸:「いや、そりゃそうは言ったが……本気で?」
    眞守 雪斗:「真面目な男だと評価してくれたのは、緒環さんの方だ。真剣に言っている」
    緒環 伸:「本気か……」
    眞守 さざめ:「本気、でございます」
    眞守 さざめ:「ですので、ええ。緒環さんがどのようにお考えであろうとも」
    眞守 さざめ:「迂闊に約束を結んだが運の尽き。これよりは二人がかりで取り立てに参る所存にございますれば」
    緒環 伸:真面目でいい奴、と言った。
    緒環 伸:めちゃくちゃ根が強い、と言った。
    緒環 伸:それが二人がかりだと、こうも強大な壁になるとは、思っても見なかった。
    緒環 伸:「んんんんんん」
    緒環 伸:「あのですね」
    緒環 伸:声を二段階くらい小さくする。
    緒環 伸:「その……だ。ちゃんと先に言わなかった僕が良くないんだが」
    眞守 さざめ:「む?」
    緒環 伸:「君らは結婚して夫婦で家族だろ」
    眞守 さざめ:「はい」素直にこくんと頷く
    緒環 伸:「僕の血は……その」
    緒環 伸:「……作れなくなる、可能性がある」
    緒環 伸:前半は、ごにょごにょ言っていて聞こえづらかったかもしれない。
    眞守 さざめ:「……?」歯切れの悪い言葉に、始めは何を言われたか分からぬというような顔をして、
    眞守 雪斗:「作れなくなる?」 素直に訊き返す。
    眞守 さざめ:「と仰いますのは、いったい?」
    緒環 伸:「声下げて」
    緒環 伸:「子供を」さらにワントーン下げたが、今度は聞こえたろう。
    眞守 さざめ:「……………………」
    眞守 雪斗:「……ふむ」
    緒環 伸:珍しく、ものすごく沈痛な顔をしている。
    眞守 雪斗:ちら、とさざめを見遣る。
    緒環 伸:その事実もだが、こういう場でそういうこと言うのどうなの?という気持ちが強い。
    眞守 さざめ:平時に外を歩く時のような、眼球の動きを隠す笑みになっている。
    眞守 雪斗:子を成すことは、彼女のかなり強い望みだったはずだ。
    眞守 さざめ:が、加えて言うに。
    眞守 さざめ:その顔のままでピタリと固まっている。思考停止とでも言おうか。
    眞守 さざめ:少しの間が空いた後に、
    眞守 さざめ:「……ええと、はい。つまり、その、そういう仰りようということは……その」
    眞守 さざめ:「緒環さんは……?」
    緒環 伸:「ストップ」
    緒環 伸:「それはね、まあ、あんまり深く掘らないでおいてほしい」
    眞守 さざめ:「そ、そういうことでしたら……」
    眞守 さざめ:たじろぐ様子を見せて頷き、
    眞守 さざめ:「……なんと」
    眞守 さざめ:「全く……全くもって考慮していない事態でした……!」
    眞守 さざめ:呆然と、という形容の似合う様子で言った。
    眞守 雪斗:「…………そもそも」
    眞守 雪斗:「お前が子供を望むのは────家のことや、技術の継承が主な理由だったと記憶しているが」
    眞守 さざめ:くるり、首が〝夫〟の方へと向けられる。
    眞守 雪斗:「……お前が長命の者になれば、解決するんじゃないのか」
    眞守 さざめ:「えっ?」
    眞守 雪斗:「継承する必要もない。お前が老いず、そこに有り続けるなら」
    眞守 雪斗:「……違うか?」
    緒環 伸:「あー……そっちに行っちゃう……?」
    眞守 さざめ:「……………………」
    眞守 さざめ:人差し指を眉間に当て、もみほぐすようにしながら、しばし沈黙して考え込み、
    眞守 さざめ:「……なるほど」
    眞守 さざめ:「なるほど…………!」
    緒環 伸:「なるほどっちゃったかー」
    眞守 さざめ:……強い衝撃を受けた人間は、語彙が極端に減ることがあるという。
    眞守 さざめ:まさにその状態であった。
    眞守 さざめ:「なぜ……私は……その事実に気付かなかったのか……!」
    緒環 伸:この夫婦は、多分、コースがどうとかではない。
    緒環 伸:二人揃って、まっすぐに突き進んでいる。
    緒環 伸:今は、多分、こっちに向かってきている。
    眞守 雪斗:「……緒環さん」 思考がぐるぐるしている嫁を横目に。
    緒環 伸:「はい?」
    眞守 雪斗:「……あいつも、考えなしではありません。考えて、考え抜いて、緒環さんに『約束』したんでしょう」
    眞守 雪斗:「だから、俺はそれを尊重したい。それだけです」
    眞守 雪斗:「……本当に、貴方がそれを望まないなら、拒否してくれたっていい」
    眞守 雪斗:「少なくとも、二人で生きていくことはできる。それだけは、揺るぎませんから」
    緒環 伸:「君は、それでいいんだな」あれを見てもなお、と思う。
    眞守 雪斗:深く、頷く。
    緒環 伸:年老いた妻の顔を見た、と言っていた。
    緒環 伸:しかし、二人で常の人の道から外れるのであれば、それは、現実にはならない、ということになる。
    緒環 伸:傍に誰かが居てくれれば、きっと、長い長い道のりも……。
    緒環 伸:「……ああ」
    緒環 伸:「羨ましいな」
    眞守 雪斗:「羨ましい、ですか」
    緒環 伸:「実は僕もわりと憧れてるんだよ。夫婦とか、家族とか」
    緒環 伸:「僕にはそういうのは無理だったが、君たちがそうやって一緒に生きられるなら」
    緒環 伸:「……正直に言うと、まあ、嬉しい」
    眞守 雪斗:定命の道を外れた孤独。あの『記憶』の中で、感じたものだ。
    緒環 伸:「嬉しいからこそ、積極的に引き込むのもな、とは思ってた」
    眞守 雪斗:「……俺たちが、そうなれば」
    眞守 雪斗:「少なくとも──緒環さん。貴方が見送る人は、二人減る」
    緒環 伸:「……うん」
    眞守 雪斗:「それが、何の足しになるかは分かりません。見送る人の方が多いでしょう」
    眞守 雪斗:「……俺は、積極的に取り立てる、っていう柄じゃないので。さざめは知りませんが」
    緒環 伸:「足しに、なるさ」
    緒環 伸:「なあ、ちょっと気持ち悪いことを言うよ。聞き流してくれ」
    眞守 雪斗:「……はい」
    緒環 伸:「血を分けた相手が、ずっと生きていてくれるんだ……!」
    緒環 伸:泣きそうな顔をしていた。
    眞守 さざめ:「──言葉は、意外でございました」
    緒環 伸:そのままでいたら、泣いていたかもしれない。
    眞守 雪斗:本来、血を分けるとは。子供に対して使う言葉だが、この場合は────文字通りの。
    緒環 伸:「悪い。今のはまあ、その」
    緒環 伸:「僕の、勝手な思い入れだ」
    眞守 さざめ:「……いえ、いいえ」
    眞守 さざめ:「先ほども話しましたでしょう。友であろうとして、そうなれなかったひとのこと」
    眞守 さざめ:「あのひとは、孤独と別れに倦んでいるように思えました。……もしかすると緒環さんも」
    眞守 さざめ:「やがてそうなる、と分かっていたから、良いものではないと仰ったのではありませんか?」
    緒環 伸:「そうだね。まだその域にはなってないけども、ずっと……怖いよ」
    緒環 伸:血だまりに倒れる親しい人々の姿を思い出す。
    眞守 さざめ:「ならば。……いいえ、決して初めからそのように思っていたのではございませんが」
    緒環 伸:そうして、全てを失った自分の未来にも思いを馳せる。
    眞守 さざめ:「私達が老いぬまま、二人で歩いていくことは」
    眞守 さざめ:「緒環さんの寂しさを和らげられるのではないか、と思うのです。ふたりぶんだけ」
    眞守 雪斗:頷く。長命となれば、他者との隔たりを感じることも、あるだろう。あの『記憶』のように。
    眞守 雪斗:だが、それを分かち合える者がいれば──救いには、なりはしないだろうか。
    緒環 伸:「君らはね。君らは……おじさんの寂しさにつけこんで……」
    緒環 伸:「…………」
    緒環 伸:「……前倒しにはしない」
    緒環 伸:「三年、二人で考えて、話して、家族の生活を味わって」
    緒環 伸:「それでも、と思ったら来なさい」
    緒環 伸:「僕は待ってる」
    眞守 雪斗:ふ、と笑い。さざめに、目を遣る。
    眞守 さざめ:「逃げないでくださると言うのなら、ええ。執念ぶかい事には相応の自信を持っておりますので」
    眞守 さざめ:「必ずや、受けとりに参りましょう」
    緒環 伸:「逃げないよ。もうちょっと今の場所で戦わなきゃいけないし……」
    眞守 さざめ:向けられた視線に、自然に開かれた目を重ねて頷き、
    緒環 伸:「三年後なら、その事後処理もあるだろう」
    緒環 伸:「だから、待ってるよ。二人で来なさい」
    眞守 さざめ:カフェオレを手に取る。もう殆ど空にしてしまっていたが、最後の一口を飲み干した。
    眞守 雪斗:「ええ。────約束、です」
    眞守 さざめ:「……ふふ」
    眞守 さざめ:「人付き合いのよろしくない雪斗さんが、案外に懐いたものです」
    眞守 さざめ:す、と立ち上がり、「行きましょう」と言った。
    眞守 雪斗:照れ隠しか、くしゃくしゃ、とさざめの頭を撫でて、立ち上がる。
    眞守 雪斗:「緒環さん。また、いつか」
    緒環 伸:「うん。普通に会う分には三年と言わず、そのうちね」
    緒環 伸:仲睦まじい様子にまた目を細める。
    GM:時計の長針が、最初の位置からようやく反対側に届いたころ。
    GM:三人は、平凡な挨拶を交わしてわかれた。
    GM:再開がいつになるのかは知らないが、広いようで狭い世間で、この街だ。
    GM:案外数日後にばったり出くわして、世間話に花を咲かせたりするのやも知れない──。


    GM:──さて。
    GM:そもそもの話なのであるが、任務でもなんでもなかったのである。
    GM:予定の無い日が重なったので一緒に出かけよう、となった夫婦が、買い物目的で街へ出たという発端であり、
    GM:つい話し込みなどしてしまったが、その後の日程が大きく狂うほどでも無いので、普通に目的の店へ向かっている。その道中のことだ。
    眞守 さざめ:「……ううううぅ」いきなり、道端で、両手で顔を覆って呻き声を上げた。
    眞守 雪斗:「……どうした」 その様子に、僅かに動揺を声に滲ませる。
    眞守 さざめ:「気付かなかった……」
    眞守 さざめ:「全く……気付かなかった……!」
    眞守 さざめ:耳まで赤くなっているさざめが、絞り出すようにそう言った。
    眞守 雪斗:ああ、と嘆息する。恐らくは、先程の。
    眞守 雪斗:さざめの身体を引くように、人目を避け──路地に入る。
    眞守 さざめ:腕を引かれて歩く間も、その調子は変わらずで、
    眞守 さざめ:「子を成して家を継がせるのが当たり前と思っておりましたから……全く以て……」
    眞守 雪斗:前にも二人でこんな狭い路地に詰められたことがあったな、と、思い返す。
    眞守 さざめ:「〝そもそも継がせる必然性が無くなる〟など……考えもしなかった……!」
    眞守 雪斗:「……なら、子供は不要か?」
    眞守 雪斗:そもそもが、『さざめが望むなら』というのが雪斗の子供に関するスタンスだ。
    眞守 さざめ:「……………………」
    眞守 さざめ:要、不要を考えたことが、そもそも今まで無かったのだ。産んで当然と思っていたのだから。
    眞守 さざめ:だが、今、こうして理詰めで考える機会を与えられると。
    眞守 さざめ:「……その……ええと」
    眞守 さざめ:「必ずしも必要とは言えない……と、申しましょうか……」
    眞守 さざめ:歯切れは悪いが、つまりは肯定であった。
    眞守 雪斗:「ふむ」
    眞守 雪斗:「……時間はある。お前が望むなら、俺は応える」
    眞守 雪斗:開いた瞳を、じ、と見つめ。
    眞守 雪斗:髪を撫で、そのまま後頭部に手を滑らせ────
    眞守 さざめ:「ぅ」小さな呻き声。両手を降ろし、覗き込む眼に視線を返す。
    眞守 雪斗:ゆっくりとした動作で、自分の体に引き寄せる。
    眞守 さざめ:ぽす、と胸の中にその体は収まって、
    眞守 雪斗:そのまま、言葉を落とす。
    眞守 雪斗:「……俺は、お前の望むことを叶えてやりたいと思っている」
    眞守 雪斗:「それが、俺の『愛する』ということだ」
    眞守 雪斗:「──ただ、俺が一つだけ。望むのは」
    眞守 雪斗:ぎゅ、と強く。身体を寄せて、
    眞守 雪斗:「お前が俺の傍にいることだ」
    眞守 雪斗:「────それ以外は、何も望まない」
    眞守 さざめ:ぶるっ、と両肩が震える。寒さや嫌悪ではない身震い。
    眞守 さざめ:それから、どこか拗ねたような響きを伴って、胸の中で声がする。
    眞守 さざめ:「……まったくもう。そうと気付いていれば、ああも急いで夫捜しをせずとも良かったものを」
    眞守 さざめ:「おかげでかかずとも良い恥を、もう一生分はかいた気がします」
    眞守 雪斗:「さて、夫捜しをしていなければ、『こう』はなっていないと思うが」
    眞守 雪斗:「──お前は、それでもいいのか?」
    眞守 さざめ:「もう」
    眞守 さざめ:「……それは、いやですけれど」
    眞守 雪斗:いくばくか、腕の力を緩める。
    眞守 さざめ:「っ、あ、あのですね」
    眞守 さざめ:「あの、雪斗さん、その……そういう事は、せめて家に帰ってからで……」
    眞守 雪斗:「……これ以上はしない」 唸るように。
    眞守 雪斗:「ただ、もう少しだけ、このままでいさせてくれ」
    眞守 雪斗:少し、疲れたような声だった。
    眞守 雪斗:──精神的な疲弊。重い鉛のようになった心臓。
    眞守 雪斗:触れていると、少し。軽やかになっていく気がした。
    眞守 さざめ:「……おかしな雪斗さん。子を成すやら成さぬやらの前に、大きな子供みたいになってしまって」
    眞守 さざめ:背へと、腕を回した。
    眞守 さざめ:肩の幅、背の広さ。抱きしめる腕の長さは、同じようには行かないが。
    眞守 さざめ:とん、とん、と宥めるように、背を叩く手のひら。
    眞守 雪斗:顔を俯向け、髪に埋めるように。ああ、きっと。俺は多分。
    眞守 雪斗:────彼女なしに、生きていくことは出来ないのだろう。
    眞守 さざめ:「……少しだけですよ」
    眞守 雪斗:「……ああ、少しだけ……」
    眞守 さざめ:咎めるような口ぶりも穏やかに。
    眞守 さざめ:とん、とん、とん。
    眞守 さざめ:子供をあやすようなリズムが、暫く続いた。


    GM:──さて。
    GM:あなたは別にサボっているとかそういう訳ではないんだけど、急ぎの用も無いのでのんびりと過ごしていたのである。
    GM:いささか疲れるようなことも有ったが、それもまぁ終わって、平和な時間がカムバックしたという訳だ。
    GM:ということで緒環さん、1行2行くらいのんびりしていてください。
    GM:と、もう一度リクエストさせていただこう。
    緒環 伸:ほーっ、と息を吐き、特に何に使うでもなかったノートパソコンを閉じる。
    緒環 伸:少し目も閉じて、しばらくは何もせずにじっとしていた。
    GM:すると。
    GM:突然、あなたの携帯している、UGNからの支給端末が、音声着信の通知を出すのである。
    GM:振動かも知れないし、何かしらの着信メロディーを設定しているかも知れないが、その辺りは自由にしていただきたい。
    緒環 伸:デフォルトの着信音が流れ出す。あんまり使い方にこだわっていないので。
    緒環 伸:さっと端末を取り、着信に対応する。
    緒環 伸:「はいどうも、緒環」応答はゆるい。
    支部員:「もしもし、いったい何処にいるんです?」緊急性はまるで無さそうな、だが口うるさそうな声。
    緒環 伸:「パトロール中。ただ、さっき一件R案件に遭遇したんで、帰ろうかと思ってた」
    支部員:「……緒環さんって二人いました?」
    緒環 伸:「二人居たら二人ともサボれるのにね」
    支部員:「あ、そういうのはいいです」ぴしゃり。普段から冷たい奴なのだ。
    支部員:それから、急に真剣な声音になって
    支部員:「つい先ほど、R案件とおぼしき状況に遭遇した支部員がいて、学生をひとり保護したんですが」
    支部員:「彼女が言うには、その……〝緒環ってひとに助けてもらった〟とか言ってまして……」
    緒環 伸:「……もしかして、名無さんって子?」
    支部員:「そうですけど……地区内のほぼ反対側ですよ。あっ、その端末持ってたら流石に位置情報探れるんですからね!」
    支部員:「……こほん。いえ、なのでちょっと不思議に思ってまして……いや、別段問題が無かったというなら良いんですが……」
    支部員:「とにかく、そういうことでした。……というか、そっちで遭遇したR案件ってなんなんですか。増援要りますか?」
    緒環 伸:「了解。こっちのは……いや、もう終わった」
    緒環 伸:「頼れる増援がいたんで、無事解決」
    緒環 伸:「後で報告書上げるよ」
    支部員:「は・や・めに・お願いします」
    緒環 伸:「今日は早いよー。何せいいことがあったからね」
    支部員:「いつもそうしてください!」
    支部員:「……まったくもう。うちの支部は慢性的な人手不足なんですからね! 戦闘員の私がオペレーター兼任してるくらいなんですから!」
    緒環 伸:「わかってるって」
    緒環 伸:「頼りになるフリーのエージェントと知り合ったから、今度はそっちにも仕事頼んだら?」
    支部員:「……情報は情報として貰っておきますが、そもそも緒環さんがちゃんと仕事をしてください」
    支部員:「ああもう、どうしてうちの支部はこう、仕事のできるひとに限って仕事をしたがらないんですか……!」
    緒環 伸:「ちゃんとしてるよー。仕事の方が僕を苦手なだけで……とまあ、それはそれとして」
    緒環 伸:「なるはやで戻って報告書を上げます。寄り道はしません、と」
    緒環 伸:「これでいいだろ?」
    支部員:「……聞き分けがいいですね」
    緒環 伸:「いいことがあったからね」
    支部員:「では……こほん。〝パペッティアー〟、十分にお気をつけて支部への帰還を」
    支部員:「いかなる場合であれ、第九支部は人員不足」
    支部員:「百万が一にも構成員を失う危険を冒してはならないというのが鉄則ですので」
    緒環 伸:「了解。……君も身体には気をつけろよ」
    支部員:「頑丈が取り柄です」
    GM:つっ
    GM:と僅かなノイズが混ざって、通信は途切れる。
    緒環 伸:端末をポケットにしまう。ノートパソコンも鞄に。素直に帰るつもりだ。
    緒環 伸:……帰る場所がある、とそう思えることが、何よりありがたかったから。
    緒環 伸:今日はいいことがあった。……面倒も、苦しいこともたくさんあったが。
    緒環 伸:昔の家族は半ば捨ててしまった。
    緒環 伸:恋する相手は、当たり前の家族になれるような人ではなく。
    緒環 伸:子を得ることもできず……でも。
    緒環 伸:ああして寄り添おうとしてくれる相手がいるということ。
    緒環 伸:それは、滅びの未来に向けて戦う、何よりの力になると思った。
    緒環 伸:(……なあ、わりと捨てたもんじゃないよ)
    緒環 伸:呼びかける。それは、鏡の中の絶望した顔の自分に対してでもあるし、
    緒環 伸:首を絞められて苦しんでいた少年に向けての言葉でも、
    緒環 伸:家に縛られて頑なになっていた少女へに向けた激励でも、
    緒環 伸:亡くした家族を誰より欲しがっていた、あの子に伝えたいことでもあった。
    緒環 伸:鞄を抱えて、席を立つ。
    緒環 伸:コーヒー一杯にしてはずいぶんと長い時間の休憩は、ようやく終わりを迎えた。



    GM:Dx3rdセッション『心をひらいて』、一切の行程を終了致します。
    GM:お疲れ様でした!
    眞守 雪斗:お疲れ様でしたーーー!
    緒環 伸:お疲れ様でした!!