烏が鳴くから
帰りましょ

忘れられた女王~オルビダ・ヒストリア~

作曲:TESTMANさん(ニコニコ動画マイリスト
作詞:ハシブトガラス


失われた空 凍て付く王国
光閉ざす雲 一つの宣告

(幾年を隔てようと、この雲を消せはせぬ。
 かの女王の命こそが、ただ一つ我が望みと。
 呪われし盟の元に、差し出され消えて逝った、
 美しき女の名を、語り継ぐ声も無く。)

望まないわ ただ一人の生は
(犠牲は 許し難くて)

美しき地よ
正しさを望むならどうか(正しさを望むから 嗚呼)
(黒く塗り潰した)

世界が
(偽りで飾る)
記す ヒストリア
(真を歪めた 正しきヒストリア)
私は
(真実の歴史)
何時か 開かれる
(世界は目を伏せ誰にも開かれぬ)


忘れ雪解けて 返り咲く光
神々を讃え ハレルヤは響く

(民草か貴女のみか、何れ一つ与えよう。
 凍て付いた城の中に、永遠を祝福せん。
 かの女王を弑せしは、魔術師の手には非ず。
 畏れ惑う臣民の、振り上げたギヨティーネ。)

望まないわ ただ一人の生は
(彼等は 信じられずに)

美しき人
優しさを望むならどうか(優しさを望むから 嗚呼)
(黒く塗り潰した)

世界を
(己らを飾り)
隠す ヒストリア
(祈りを歪めた 正しきヒストリア)
私を
(偽りの中に)
何時か 思い出す
(刻んだ罪ごと痛みを思い出せ)


(女王を殺せ)与えましょう
(奴に差し出せ)捧げましょう
(ギロチンに掛け)この命は
(こうべを落とせ)惜しくは無い
(我らの咎か)私だけは
(我らの罪か)貴方達を
(許されぬなら)赦しましょう
(歴史を閉ざせ)愚かな人


(千年の繁栄に、影を落とす呪い一つ。
 森に済む魔術師の、他に誰も知るは無し。)

千年を超えた今も囚われた魂は、
王国の影の中で眠り祈り続け……


貴女は
(世界に閉ざされ)
記す ヒストリア
(知る者無くした 悲しきヒストリア)
私は
(安らぎを与え)
何時か 見出される
(世界は目を伏せ赦しを受け入れる)

世界は
(La 偽りを捨てて)
記す ヒストリア
(真を束ねた 〝正しき〟ヒストリア)
私は
(La 真実の歴史)
嗚呼 此処にいる
(貴女は開かれ全ては此処にいる)

rest your soul……

rest our Queen……








「貴女の命など、本当はどうでも良い。
 貴女を差出せと命じられた国民が、貴女にどのような仕打ちをするか、
 愛する国民に刃を向けられた貴女がその微笑みをいかに曇らせるか、それが見たかっただけなのです。
 嗚呼、なのに、なのに、首だけになっても貴女は、私以外の為に笑っている」

 忘れられた女王、というタイトルに対して思い描いた物語です。
 この歌詞に関しては思い入れが強すぎると言いますか、自分が書いた中で最もよきものであると思っています。
 それは、詳細に見るならば稚拙な部分もあるかも知れませんし、良く出来る部分もあるかも知れません。
 けれども、この歌詞で描くことの出来た物語を私は愛しています。

 なかなか完成までに難航した歌詞でもありました。
 まずこの曲が、二体のボカロの掛け合いによるものであり、かつその掛け合いは交互だったり同時だったり、様々なパターンがあります。
 ので、まず音を「ららら」で書き出して、どこの音とどこの音が被る、被らないを確認しました。
 それから、ここはこの母音で伸ばすからこっちはこういう音で、とパズルのようにカチャカチャとやりまして、第一稿。
 そうしたら次は作曲者様とのやりとりで、歌詞を大幅に修正したり、音を発するタイミングを調整したり。
 一曲の歌詞に関して、この曲以上に長く深く、真剣に相談したことは他にありません。
 そういう意味でもこの歌詞には、強い思い入れがあるのです。

 昔々あるところに 美しく聡明な女王が治める王国がありました。
 女王は国民を愛し、国民は女王を敬い、人々は幸せに暮らしていました。
 そんなある日、悪い魔術師が王国の空に暗い雲をかけて 光を閉ざしてしまいました。
 悪い魔術師は言いました。
「女王様の命か、国民全員の命か。どちらかを差し出しなさい。」

 暗い森の奥。魔術師が一人住んでいた。
 魔術師は一人の女を、産まれた瞬間から見守り続けていた。
 女は美しく善良に育ち、その生にかげりなど無いようだ。
 全ての国民は女を愛し、女もまた無私の愛を国へと注ぎ続けた。
 魔術師は思う。
 もしあの女が国民に裏切られたなら、あの女はどんな顔をするのだろう?
 あの国民達は、自分達の幸福を捨ててまで、あの女を愛し続けられるのか?
 出来るものならやってみろ。見せてみろ。
 私一人をこの森にとどめ忘れ去ったお前達が、真実、愛を示すというのなら。
 それは私にとってもこの上ない慰めだろう。
 魔術師は空を暗い雲で覆った。日の光を絶たれた王国には長い冬が訪れた。
 川は凍てつき、飲み水を得る為に火を起こさねばならず。作物が育つどころか、土壌に鍬も刺さらぬ。
 この冬が続けば国は滅ぶしか無いと誰もが嘆いた時、魔術師は現れて、こう告げた。
「幾年を隔てようと、この雲を消せはせぬ。かの女王の命こそが、ただ一つ我が望み。
 されど、そなた達が女王に忠を尽くすならば、民の命総て束ねて供物とせよ」
 魔術師は期待していた。国中の民が己が前にかしづき、女王の命を救ってくれとこいねがう様を。
 けれども魔術師は人に期待をしていなかった。女王は国を追われ、一人我が元を訪れ、命を絶てと願うだろうと。
 魔術師は、人間を見くびっていた。

 我が命か、国民全ての命かと問われた時、女王は迷いすらもしなかった。
 だが、その場で我が喉を掻ききるには、引き継がねばならぬ物事が多すぎた。
 自分亡き後、万事滞ることを憂いた女王は自室に籠もり、国政の隅々まで目の行き届いた遺書を記し始めた。
 一日が経ち二日が経ち、三日目が終わる前に、誰かが叫んだ。
「女王は命が惜しいのだ! 城に隠れ、我々を魔術師に差し出そうとしている!」
 国民達は白い怒声を寒空へ張り上げ、凍える手に武器を持ち、王城へと攻め込んだ。
 女王は捕らえられ、罵られながら広場へと引きずり出され、愛した国民達の手でギロチン台に掛けられる。
「女王を殺せ!」「奴に差し出せ!」
 刃は落とされた。

 やがて女王の首は、森の魔術師の元へ届けられる。
 凍り付いた大地に平伏し卑屈に笑う使者を、魔術師は、怒りのままに惨殺した。
 そして女王の首を抱え、嘆き、言ったのだ。

「貴女の命など、本当はどうでも良い――」

 誰をも愛し、誰にも愛される女を、我がものとしたい。
 魔術師は願いも、願いの叶え方も、何もかも間違えたのだ。