烏が鳴くから
帰りましょ

片思い

編曲:チルドPさん(ニコニコ動画マイリスト
作詞:ハシブトガラス

生温い現実の枷を
荒び砕く青き神の風よ
疎ましき条理の鎖を
錆びつかせた黄金色の波よ

夜毎に恋い焦がれ踏み込んだ永遠は
今はもう 朽ち果てた幻想ゆめの果てに

山よ哭け 空よ叫べ
人の愛した夢は何処へ
白き雲 黒の星さえ
時の彼方に忘れ去られて



紛い物 器に満たして
注ぐ夢は全て黒に染まる
風の中 痛みを叫んだ
声は響く 幻葬の残骸

気高き紫も懐かしき七色も
今はもう 忘れ去られたno color

人よ哭け 天土あまつちを賭け
我と我が身を焦がす恋よ
幾億の奇跡の果てに
幻想ゆめは再び 還るだろう

山よ哭け 空よ叫べ
人の愛した夢を求め
白き雲 留まるならば
時の彼方も祈りを繋ぐ

どうか未だ目覚めぬ侭――









\  /   この幻想郷では常識に囚われては
●  ●   いけないのですね!
" ▽ "


 なんて早苗さんの意気込みも、何百年過ぎればどうなるでしょう。何千年ならどうでしょう。
 私は案外、何も変わらないままでないかと思うのです
 人にして人にあらざる早苗さんであれば、神が死ぬ時代であろうと、人が死ぬ未来であろうと、割とおんなじ顔のまんまで生きているんじゃあないかと思うんですよ。
 過ぎ去った過去に思いを馳せながら生きていくような、慎ましい方でもないと思うんですよ。
 正しいのは私です、私以外が間違っているんですと、そういう勢いで歩み続けてくれるんじゃないかと思うんですよ。

 別な曲でご一緒したチルドさんに誘われて、かなり勢いで作詞した記憶がある歌詞です。
 確か一番最初に出て来たフレーズが「山よ哭け 空よ叫べ」ではなかったかなあと。今此処に魔の時代来たりそうなところから出て来た訳ですね。
 しかし早苗さんがそんな言葉を発するのってどんな機会だろうとも思いまして、結果的にこのような次第に。
 例によって技巧を凝らしたものではありませんが、お気に入りは2番Bメロです。
 例えばの話ですが。
 己を幻想へ呼んだ二柱の神も無く、紅白と白黒の二つの輝きも無く、賢者も、数多の妖怪も無く。そういう日が来たとしたら、彼女にとっての幻想郷とはどんなものでしょう。
 自分を焦がれさせた者が全て去り、大地は自らを愛さなくなった世界は、彼女にとって絶望するに足りるものでしょうか。
 そうは思いません。
 東風谷 早苗という人間を私は過剰に信頼しているのかも知れません。
 私の恋い焦がれた幻想郷は、私自身が取り戻す。
 早苗さんはそういう気概に溢れた、かっこいいひとだと思っているのです。

 ただ、その上で一つだけ付け加えるならば。
 彼女にとって幻想郷を最も強く意識させるものはなんだったのかと夢想しました。
 彼女が焦がれるのはきっと、空を箒で飛ぶくせに地に足のついたしっかり者ではないのだろうなぁと。
 思い描くのは、ふわふわとつかみ所のない、白い雲のようなひと。
 だからこそこの曲名は〝片思い〟なのです。